「驚安の殿堂」と名高いディスカウントストア「ドン・キホーテ」(以下、ドンキ)。オリジナルブランドの「情熱価格」では、あえてチューナーを外した「チューナーレス スマートテレビ」や、にんにくを通常の6倍もトッピングした「にんにく入れすぎ 激辛ペペロンチーノ 大盛り」など、既存のナショナルブランドでは見かけない斬新な商品を多数展開している。

 そんな「情熱価格」は2021年2月のリニューアルから1年以上が経ったが、いったいどのように変貌を遂げたのか。また、一風変わった商品はどのようにして生まれるのか。ドン・キホーテを展開する株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスPB事業戦略本部PBサポート部PBマーケティングチームの責任者である中武正樹氏に話を聞いた。

個性的な商品の数々、なぜ誕生?

「『情熱価格』がスタートしたのは2009年10月。お客様から寄せられる『こんな商品が欲しい』『あの商品をもっと手頃な値段で』といった声にお応えするために作られました。ただ、ブランドの立ち上げから時間が経つにつれ、ラインナップが他社と同質化してきてしまった。ドンキの企業コンセプトは『CV(コンビニエンス)+D(ディスカウント)+A(アミューズメント)』なのですが、そのなかの『A』、つまり楽しさやおもしろさが失われてきたように感じ、昨年の2月にリニューアルを行いました」(中武氏)

 リニューアルにあたり、ブランドの構え方を「プライベートブランド」から「ピープルブランド」へと変更。新たなPBとして生まれ変わることで、今まで以上に顧客の要望を聞きながら、「皆さん(=ピープル)のために、ドンキがお客様と一緒に作っていくブランド」というコンセプトを強めていったという。

「『にんにく6倍ペペロンチーノ』や『ゼリー史上最高レベルに酸っぱいゼリー』などの振り切った商品は万人受けが難しく、他社ではあまり見かけません。しかし、『たとえ万人受けしなくても、求めているお客様がいるなら我々が作らないでどうするんだ!』と、使命感のようなものを感じて取り組んでいます。決して、ふざけているわけではないんですよ(笑)」(同)

 顧客の「欲しい!」を形にして、数々の商品が誕生した。なかでも食品では、大容量なのに低価格で味も個性的な「冷凍パスタ」シリーズや、通常よりも大きくてお得な「みかん缶」、担当者がベストなバランスを追求した「素煎りミックスナッツDX」などがヒット。家電では、冒頭で触れた「チューナーレステレビ」、インテリア系では、とことんゴロゴロしながらゲームに没頭できるという“ゲーミングマットレス”の「ゴロゲー」などが、特に売れ筋だという。

「商品を作る際は、『夕食にニンニクがたっぷり入ったペペロンチーノを食べたいと考えている30〜40代の男性』など、ターゲットを細かく絞り込みます。そこから、さらにニーズを深掘りして、今までありそうでなかった個性的な商品に落とし込んでいくのです」(同)

あえて“ダサい”パッケージの理由

 中武氏は「商品開発において、購買層を明確にし、より希望を汲んだ商品にすることの重要性を教えてくれたアイテムがあった」と語る。

「リニューアル前に、モバイルバッテリーの本体とケーブルを別々に持ち歩くのが面倒だという要望を受けて、本体と巻取り式ケーブルが一体になった『巻取左衛門 蓄電の助』という商品を発売しました。この商品自体は評判がよく、便利だという声も多かったのですが、問題はパッケージと商品名です。パッケージには時代劇をイメージしたチョンマゲ姿で着物を着た男性のイラストを大きく使用し、その手にバッテリーを持たせて、主なターゲットとなる男性層にアピールするようなものでした」(同)

 インパクトの強いパッケージだが、ドンキは「激安ジャングル」とも呼ばれるほど商品点数が多いのが特徴だ。「蓄電の助」のパッケージと商品名は、ジャングルのような店内では瞬時に商品の性能がアピールできず、手に取ってもらいにくかったという。

「お客様が求めているのは『ケーブル一体型のモバイルバッテリー』であって、『蓄電の助』ではなかったわけです。にも関わらず、このパッケージと商品名には我々のエゴが出すぎてしまった。『しっかりお客様の声を聞くべし』という教訓を、『蓄電の助』が教えてくれたのです」(同)

 これらの反省を活かし、「情熱価格」のリニューアルの際にはブランドロゴと商品パッケージを一新した。

「ロゴは、一目見てすぐに『ドンキの商品』とわかるよう、大きな『ド』の文字が目立つものに変えました。パッケージには、新ロゴに加えて『驚きのニュース』という、その商品の推しポイントやメリットを簡潔に紹介する文章を記載しています」(同)

 驚きのニュースがあることで、どんな商品なのかが即座に伝わりやすくなる。より確実にターゲットに訴求するために、ニュースの考案には時間をかけているそうだ。

「文言を考えるデザイン部に対して、商品開発者がストロングポイントをプレゼンします。たとえば『にんにく6倍ペペロンチーノ』なら、340gというボリュームも、そのまま電子レンジに入れられる便利なトレーも、すべて推したい。しかし、メインターゲットはやはり『にんにくが好きな人』なので、ニュースの文言もそこを一番にプッシュしたものになるよう考えています。現在のパッケージは『ダサい』という意見も聞きますが、逆にいえば気取らない“ドンキらしさ”がある。商品の魅力も伝えやすく、『情熱価格』にふさわしいデザインだと自負しています」(同)

商品改良の鍵「ダメ出しの殿堂」とは

 どこまでも消費者に寄り添った商品づくりに注力するドンキの情熱価格だが、その最たる例が「ダメ出しの殿堂」だ。これは商品の改善要求を募集する取り組みで、消費者から忌憚のない意見を集めることで、商品の改良に活かしているという。

「実際に『コーティングがはがれやすい』というダメ出しが多数寄せられていた『ダイヤモンドコートIHフライパン』は、コーティング部分を一から見直し、耐久性をよりアップしました」(同)

 このフライパンの改善にあたっては、金属ヘラによる耐摩耗テストを行い、30万回以上擦ってもコーティングがはがれない耐久性を確認するなど、徹底を重ねたそうだ。ほかにも、消費者の期待を良い意味で裏切るために、商品化にあたっては各担当者が身を粉にしているという。

「にんにく6倍ペペロンチーノ」や「激辛レッドカルボナーラ」などに代表される冷凍パスタの開発担当者は「『やりすぎ』をキーワードに開発を進めましたが、おいしくなければ意味がないので、全体のバランス調整に苦労しました」と、開発の苦労を語ってくれた。

 また、「ゼリー史上最高レベルに酸っぱいゼリー」の担当者は「開発段階での試食が本当に苦痛でした……」とコメント。おいしさと酸っぱさが両立した黄金比にたどり着くまでには、相当酸味が強いゼリーも試食したと思われる。そう考えると、かなり体を張った商品開発といえる。

 もちろん、苦心しているのは食品部門に限らない。鉱石を練り込んだ繊維で血行を促進し、筋肉疲労を緩和させる、着るタイプの「疲労回復」シリーズも、本格的な機能性を求めて、一般医療機器登録が可能な効能を持つ原料を使用。さらに、ニュースには「疲れてるならコレ着てみて!」と消費者の心に呼びかけるキャッチーなフレーズを散りばめ、他社とかぶらない“ドンキらしさ”と親近感を与えている。

「チューナーレステレビも、前例がない商品だけに手探り状態から仕様をまとめていき、パッケージや取扱説明書の作成も非常に苦労していました。どの商品も店頭に並ぶまでに試行錯誤を繰り返しており、その作業に膨大な時間がかかります。しかし、常にお客様に驚きと楽しさを届けられるブランドであり続けるため、これからも突き詰めた商品開発を続けていきたいです」(同)

 ブランド名の通り、“情熱”にあふれた人々が手がける驚安の商品たち。もしかしたら、あっと驚く運命の出会いがあるかもしれない。ぜひ、近所のドン・キホーテでミラクルショッピングを楽しんでみてはいかがだろうか。

(文=鶉野珠子/清談社)

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