原材料価格や物流費の高騰が続くなか、食品や外食チェーンの間で値上げの動きが加速している。「値上げはフリーパス」(主婦)の状態だ。アイリスオーヤマの6000品目の6月1日出荷分やビールなどを含めると、2万品目以上の値段が上がる。

 日清オイリオグループは「日清キャノーラ油」「日清サラダ油」など家庭用の食用油18品目を7月1日納入分から10〜20%上げる。2021年以降、実に6回目の値上げだ。「コスト環境は過去にない厳しい状況が続く」と説明しているが、日清オイリオの株価は5月13日、3265円と年初来高値を更新した。

 昭和産業も「サラダ油ハイディ」や「キャノーラ油」など家庭用の食用油計16品目を7月1日納入分から値上げする。値上げは2021年以降6回目だ。「サラダ油ハイディ」や「キャノーラ油」は1キロ当たり60円以上。こめ油やひまわり油は同90円以上、オリーブ油は同160円以上、それぞれ上がる。業務用も同様に引き上げる。

 5月11日、ハウス食品グループ本社が「バーモンドカレー」「北海道シチュー」「フルーチェ」など家庭用181品目や業務用も含め合計で479品目という大量の値上げを発表した。「バーモントカレー」などルーが約10%、「フルーチェ」などのデザートはおよそ8%のアップだ。業務用も平均で7%の小売価格の引き上げとなる。発表によると8月15日納入分からということになる。全製品の平均で5〜10%の値上げとなる。ハウス食品の値上げは2015年2月以来、7年半ぶりとなる。原材料価格と物流費の上昇が理由だが、カレールーのトップメーカーで子供たちに人気の「バーモントカレー」の値上げは、家計にとって衝撃である。

 外食チェーンの代表格である回転ずしでは、「スシロー」を運営するFOOD&LIFE COMPANIES(F&LC)が10月から各店舗ごとの最低価格を一皿120〜150円に引き上げる。円安や水産資源の減少で食材の調達コストや物流費が高騰していることなどが理由だ。これにより、創業以来38年にわたって続けてきた「税抜き1皿100円」の最低価格は終了する。

 F&LCは、地域ごとに店舗の賃料などを考慮して郊外型、準都市型、都市型と3つに分類している各店舗の最低価格を見直す。1皿の最低価格は郊外型で110円から120円に、準都市型は121円を130円に、都市型は132円を150円に引き上げる。10月から郊外型の店舗では現在165円の皿は180円に、330円の皿は360円になる。回転ずし業界は「1皿100円」をキャッチフレーズに集客してきたが、最大手の値上げによって、各社は価格戦略の見直しを迫られることになる。スシローに追随するのは間違いない。

KFC、CoCo壱番屋、餃子の王将

 ファーストフード大手の日本ケンタッキー・フライド・チキンは小麦粉や食用油の価格の高騰を受け、一部商品を6月以降に順次値上げする。定番商品の「オリジナルチキン」の店頭価格は7月6日に250円から260円に4%値上げする。

 6月1日、セットメニューの「チキンフィレサンドセット」を700円から740円にするのをはじめ、セットやボックスメニューなど14品目を値上げする。一方、値ごろ感を重視しているランチの「500円メニュー」や、毎月28日に1000円で提供している「とりの日パック」などの値上げは見送った。

「カレーハウス CoCo壱番屋」の壱番屋は肉や食用油の高騰を受け、6月1日からカレーや一部のトッピングなど19品目の価格を引き上げる。ポークカレーやビーフカレーといったベースのカレーは一律33円値上げし、地域によって5〜7%の値上げとなる。トッピングはビーフカツやソーセージなどが11〜22円(2〜5%)高くなる。ロースカツは295円から317円に、フライドチキンは243円から254円に上がる。

「餃子の王将」を展開する王将フードサービスや牛丼チェーン「松屋」の松屋フーズホールディングス(HD)は一部のメニューを5月からすでに値上げした。

夏以降に再び「値上げ」が相次ぐ懸念

 民間信用調査会社の帝国データバンクが実施した、上場する主要外食産業100社を対象にした「価格改定動向調査」によると、3割にあたる29社が過去1年間に値上げを実施していた。値上げを行ったのは牛丼やファミリーレストラン、うどんなどの低価格のチェーンが多くを占めた。客離れを最小限に食い止めるため低価格商品は値上げ幅を抑え、中高価格帯のメニューで大きく価格を改定する傾向が見られるという。

 原材料価格の高騰により外食各社の原価率が急速に上昇した。21年度業績が判明した飲食店約600社の売上原価率の平均は37.5%。2003年度(37.9%)以来18年ぶりの高騰ぶりで、上昇幅は過去最大だったという。

 このまま円安が長期化すれば、夏以降に再び「値上げ」が相次ぐことが懸念されている。

アイスクリーム、パン

 春は空前の値上げラッシュだったが、夏以降も食品・飲料メーカーの値上げが止まらないどころか、さらに加速する勢いだ。6月には即席麺やアイスクリームなど多くの食品が値上げを予定している。即席麺では日清食品HDが「カップヌードル」、東洋水産は「マルちゃん」ブランドの主力商品を3年ぶりに値上げする。サンヨー食品も「サッポロ一番」の値上げを予定している。

 アイスクリームも高くなる。森永製菓はアイスクリーム商品を値上げし、明治HDは市販用アイスクリームの価格を3年ぶりに引き上げる。ロシアのウクライナ侵攻による原材料高の影響が広がる。農林水産省は国が輸入して製粉会社などに売り渡す小麦の価格を4月から前半期(前年10月期)比で平均17.3%引き上げた。「欧州のパンかご」と呼ばれる一大小麦産地であるウクライナ情勢の緊迫化で小麦の国際相場が上昇したのを売り渡し価格に反映させた。

 製粉会社や製パン各社は即座にコストに転嫁した。日清製粉グループ本社傘下の日清製粉ウェルナ、「オーマイ」のニップンは家庭用小麦粉の価格を引き上げる。製粉各社の業績は好調で最高益が見通せるのに値上げに踏み切る。

 製パン会社では最大手の山崎製パンを筆頭に、フジパン、敷島製パンが値上げする。山崎製パンは値上げが奏功し、22年12月決算の第1四半期決算(1〜3月)が市場の想定以上の好決算となった。1月に食パン、菓子パンなどを値上げしたが、食パンは主力の「ロイヤルブレッド」のほか、低価格帯の食パンも好調に推移。菓子パンや新製品を計画的に投入した「ランチパック」が伸びた。山崎製パンは7月に再値上げを予定しているが、消費者はこれをすんなり受け入れるのか、7月の再値上げ断行後の売れ行きを注視したい。フジパン、敷島パンの値上げに関しても消費者が支持するだろうか。

 山崎製パンの株価は業績好調を好感して5月10日に1739円と年初来高値を更新した。8月には、ニチレイフーズが家庭用冷凍食品を引き上げる。10月にはアサヒビールがビールや缶チューハイなどの卸向けの出荷価格の値上げを予定している。

飲料にも値上げの波

 キリンビールは5月25日、缶ビール「一番搾り」など278品目の出荷価格を10月1日納品分から引き上げると発表した。缶ビールの値上げは2008年2月以来で、およそ14年半ぶりだ。キリンはビール系飲料の「淡麗グリーンラベル」「本麒麟」のほか、缶チューハイ「氷結」や輸入ウイスキー「ジョニーウォーカー ブラックラベル 12年」も値上げする。小売店の店頭価格はビール系飲料や缶チューハイなどで6〜13%、輸入洋酒で7〜17%上がるとみられている。

「一番搾り」の350ミリリットル缶はコンビニで税込み220円前後で売られているが10〜30円の値上げとなる。飲食店向けのビール(業務用)も値上がりする。対象は全商品の87%に達する。

 アサヒビールも主力の「スーパードライ」を10月から値上げすると発表している。アサヒグループHD傘下のアサヒ飲料は5月25日、炭酸飲料の「三ツ矢サイダー」など163品目の希望小売価格を4〜16%引き上げると発表した。こちらも10月1日出荷分からで、キリンとタイミングを合わせた。

 500ミリリットル〜2リットルのペットボトルの商品は15〜35円高くなる。500ミリリットルのペットボトル商品の値上げは、1998年3月以来、24年半ぶりだ。対象はスーパーなど小売店向けのペットボトルや缶の商品。全商品の6割に及ぶ。ペットボトルの「三ツ矢サイダー」(500ミリリットル)と「カルピスウォーター」(同)は20円高い160円になる。一方で、自販機向けは大半で価格を据え置くとしている。

 値上げの発表を受け、アサヒグループHDの株価は5月26日、4日ぶりに反発。キリンHDも高かった。「原材料高を吸収し、コスト増を上回る増益要因になる」(食品担当のアナリスト)と投資家は考えた。株式市場にとって値上げは「合理的な判断」ということになるのだろう。

 サントリーHDは5月26日、10月1日出荷分からビール類などを最大10%値上げすると発表した。サッポロHDも7月から焼酎と輸入ワインを値上げすると決めており、ビール類についても近日中に発表済みのビール3社に追随することになる。

「悪い円安」が続き、ウクライナ情勢の緊迫化を背景に原材料などのコストが高止まりするなか、消費者の生活に直結する食品・飲料の値上げが相次ぐ。値上げの発表がない日がないほどだ。

 空前の値上げラッシュの問題は、スタグフレーションが起き始めているということである。スタグフレーションとは、景気が後退していくなかでインフレが同時進行する現象をいう。夏の参院選は自民党が議席数を減らさないと予想されているが、「値上げフリーパス」の岸田文雄政権を、値上げラッシュに苦しむ国民が本当に信任するのだろうか。

(文=Business Journal編集部)