日本独自の規格である軽自動車で電気自動車(EV)へのシフトが始まった。日産自動車と三菱自動車は共同開発した軽自動車タイプのEVの生産を開始。日産は「サクラ」、三菱自は「eKクロスEV」の名称で6月16日に発売した。政府が2035年までに新車の乗用車すべてを電動車にする方針を示しており、各社による軽自動車のEVシフトは一段と加速する。国内新車販売の約4割を占める軽のEV化はわが国のEV普及の試金石となる。軽EVは日産と三菱自の共同出資会社NMKV(東京都港区)が開発した。日産が設計を担い、三菱自の水島製作所(岡山県倉敷市)で生産する。

 バッテリーサイズは20キロワット時で1回の充電で走れる距離は最長180キロメートル。日産のEV「リーフ」(航続距離450キロメートル)に比べると250キロメートル強、下回る。その分、一般的なEVで車両コストの3分の1を占めるとされるリチウムイオン電池の搭載量を減らし、車両価格を引き下げた。

 価格は「サクラ」が239万9100円〜294万300円。「ekクロスEV」は239万8000円〜293万2600円。補助金などを活用すると、購入者の負担は最安値でどちらも184万円となる。「日産として軽市場に投入する初のEVだ。普及に取り組む」。三菱自の水島製作所で開いた軽EVのオフライン式に出席した日産の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)が、こう語った。三菱自の加藤隆雄社長も「補助金を使えば普通の軽と遜色ない価格になる」と軽EV普及に期待を込めた。

 三菱自は09年、初の量産EV「i-MiEV(アイ・ミーブ)」を軽規格で投入したが、累計販売台数は2万3000台にとどまり、21年3月末に生産を終了した。日産のEV「リーフ」は10年の発売以来、累計生産台数が50万台を超え「世界一売れているEV」との称号を受けた時期もあったが、米テスラを筆頭にEVベンチャーが多数、登場したことから、「リーフ」の販売は落ち込んだ。

 日産・三菱自は新型EVをテコに業績回復に弾みをつけたいとしている。世界の自動車メーカーのEV戦略は、スポーツ用多目的車(SUV)など高価格帯モデルが中心だったが、今後は国内市場の4割を占める軽自動車でのEVの販売競争が激化する。ダイハツ工業は25年までに実質負担額100万円台で軽のEVを発売。ホンダは24年に商用EVを100万円台で投入し、スズキも25年までに軽EVの商品化を目指している。

 日産は6月13日、「サクラ」の受注台数が3週間で1.1万台に達した、と発表した。ガソリン車から切り替える人が多く、50歳代以上の割合が7割を超え、年齢の高い層に人気だという。日産は年間5万台の販売目標を掲げている。三菱自動車は軽EVの月間販売目標台数を850台としていたが、4倍の3400台を受注した。年間1万台の販売を目指しているが滑り出しは良好だ。

“ガラパゴス規格”の軽EVは輸出できない

「ガラ軽」。日本独自の規格である軽自動車はこう揶揄されてきた。日本の軽自動車はエンジン排気量660cc以下と定められている。輸出用の仕様では排気量を800〜1300ccにアップすることで対応してきた。

“ガラパゴス車”である軽EVは輸出には不向きだ。「現時点では日本市場に特化したモデル」(日産の内田社長)、「欧州などではハードルが高い」(三菱自の加藤社長)と、慎重な見方をしている。

 例外もある。中国のEVは軽分野に触手を伸ばす。中国勢は日本勢を切り崩す突破口として軽の商用車のEV化を狙う。中国第一汽車集団は21年末、大阪・ミナミの繁華街に日本初の店を開いた。22年夏に多目的スポーツ車(SUV)タイプのEVを日本で売り出す。

 新興のEVベンチャーASF(東京都港区)は、中国企業に生産を委託した軽EVを物流大手のSGホールディングス傘下の佐川急便に納入することを決めた。HWエレクトロ(東京都江東区)は21年末、東京・南青山に小型EVトラックのショールームを開いた。中国から輸入したEVを日本仕様に改良して販売するビジネスモデルだ。日本で独自に発展してきた軽自動車はEV化の時代を迎え、中国勢に攻め込まれようとしている。

(文=Business Journal編集部)