約50年もの歴史を誇るスナック菓子「カール」(明治)が東日本で食べられなくなる――。

 カールが8月生産分をもって全国販売を中止し、今後は西日本のみで販売されるというニュースは衝撃を呼んだ。ロングセラーといえども、競争が激化する市場ではカール同様に苦境に立たされる商品も少なくない。

 一方、一時的に売り上げが減少したが、現代的な打開策で人気を取り戻しているのがアイスクリームの「ピノ」(森永乳業)だ。1976年の発売以降、長年人気を博してきたピノは、2013年頃から販売数が伸び悩んだが、2015年度の売り上げは前年比9%増、16年度は同2%増で、ともに過去最高を更新している。

 その要因のひとつとされているのが、プロモーション企画として15年から夏期限定でオープンしている「ピノフォンデュカフェ」の存在だ。

 同店は、ピノ型のアイスに自分でチョコレートソースをつけて食べるフォンデュの体験型店舗で、初年度の15年夏に東京でオープンすると、翌年は東京と大阪の2ヵ所に拡大。いずれも2カ月程度の開催ながら、累計12万人以上の来場者を記録した。

 そして、3年目となる今年はシステムがさらに進化し、東京と大阪の2ヵ所で期間限定(東京は7月7日から8月30日、大阪は7月13日から9月10日)でオープンしている。

 ピノを再び人気商品に押し上げたフォンデュカフェとは、どんな場所なのか。実際に店舗を訪れた。

●若い女性が殺到…超簡単なピノフォンデュ体験

 足を運んだのは、東京の店舗。店内は満席で、数組の行列ができている。祝日の昼下がりということを差し引いても、盛況といっていい賑わいだ。

 そして、テーブル席に座る42名と行列に並ぶ数組の来場者のほとんどが、10代後半から20代の若い女性。男性客は全体を見わたしても2〜3人ほどだった。若者文化の発信地として知られる原宿・竹下通りからほど近い立地というのも、少なからず関係しているようだ。

 数組の行列の最後尾に並ぶ。列ができてはいるが、待ち時間はほぼなし。テーブルに案内される前にオーダーするのだが、注文できるメニューはひとつのセットのみ。これでフォンデュ体験をするということらしい。

 セットメニューの中から、好みのアイスやチョコレートソース、トッピングを選ぶというシステムになっている。アイス、チョコソース、トッピングのほかに、チョコペンとマシュマロクリーム、卵ボーロ、ハートチョコ、タルトカップ、ビスケットといったカスタマイズできる各種お菓子がついて1セットとなっており、「これらを駆使して自分だけのピノをつくる」というのがコンセプトだ。

 手順は簡単。チョコソースをつけたアイスにトッピングをふりかけたり、各種お菓子を乗せたりして“デコる”だけだ。

 筆者もチャレンジしてみたが、これなら絵心やセンスなどがなくても簡単に楽しめる上に、バリエーションも豊富。人と違ったオリジナリティあふれるフォンデュをつくれるという点も、特に若い女性にとってはうれしいポイントなのだろう。

 6個提供されるピノは、時間がたつと溶け始めてしまう。そのため、基本的にピノをデコレーションしたらすぐに写真を撮って食べる……という流れで、あまり長居をすることがない。常に行列ができているものの待ち時間がほとんどないという事情は、この回転の速さゆえだろう。1セット400円とリーズナブルな点も、若者層にとってはうれしいところだ。

 来場者からは、

「かわいくつくれたから、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)にあげるのが楽しみ」(10代女性)

「これだけでもいろいろ個性が出せるから、おもしろいと思います」(20代女性)

といった意見が聞かれ、好評そのもの。

 3年目の今年も大成功といってよさそうだが、そもそも、なぜこのような企画を立ち上げたのだろうか。森永乳業の広報担当者に話を聞いた。

●SNSが甦らせたピノ人気

「ピノは粒で分かれているので、親御さまがお子さまに分けやすいというメリットがあります。そして、そのお子さまが成長して親となったときに、再びピノを分け与えるようになるので、ピノは親御さま世代やお子さま世代から、より深く親しまれているブランドです。

 このような顧客層の循環を、弊社では『ピノサイクル』と呼んでいます。しかし近年になって、この間の世代、つまり『10代後半から20代のユーザーの底上げをしたい』ということから、若者世代に“体験価値”を高めていただき、それをPRにつなげるために、『ピノフォンデュカフェ』を企画するに至りました」(森永乳業の広報担当者)

 ピノを“楽しい1粒”にする体験を提供することで、ユーザー層を広げようという狙いだ。そして、SNS全盛の今、デコレーションしたピノを撮影してツイッターやフェイスブックなどに投稿するという若者特有の行動も、ピノ復権に拍車をかけた。

「『ピノフォンデュカフェ』1年目の頃は、ツイッターに投稿されることが圧倒的に多かったのですが、昨年からはインスタグラムでの投稿も広がりを見せ始め、今ではツイッターを超える投稿数となっています。

 ここのところ、『フォトジェニック』(写真映えのする)やそれに関連する“○○ジェニック”という言葉も流行っているので、弊社ではフォトジェニックなピノをもっと広めていただけるように、今年は“ピノジェニック”をテーマに自由度を高めたピノフォンデュを提供しています」(同)

 最近は“インスタ映え”といったワードも流行っており、こういった時代の流れもピノフォンデュカフェの追い風になっている。森永乳業は、来年以降も引き続き“体験価値”をテーマに、思い出や写真として残せるプロモーションを企画するという。

 これからは、ピノフォンデュカフェのように、既存の商品をより深く楽しむための方法を提供するようなプロモーション企画の有無が、ブランド生き残りのカギとなるのかもしれない。
(文=編集部)