トヨタ自動車とマツダは8月4日、資本提携することで合意したと発表した。約2年前の業務提携の締結で合意した際は「資本提携は考えていない」(マツダ・小飼雅道社長)と述べていたのを一転させたのは、資本で結びつきを内外に示さなければ提携を前進させられないとの経営判断がある。しかも電気自動車(EV)化の加速や米国トランプ政権による保護政策によって、提携強化は待ったなしの状態。ただ、EVに出遅れている2社が手を組むことにライバルからは「弱者連合で怖くない」との見方も出ている。

 トヨタとマツダは、資本提携を結ぶとともに、米国での現地合弁工場の新設、EV技術の共同開発、コネクテッドカー領域での協業、商品補完の拡充で合意した。米国の合弁拠点は、両社折半で16億ドル(約1700億円)を投じて生産能力が年間30万台の大規模拠点を米国内に新設する。マツダが北米市場向けクロスオーバーの新型車、トヨタが「カローラ」をそれぞれのラインで生産する計画で、2021年に稼働する。

 トヨタの豊田章男社長は、米国に完成車拠点を新設することについて「(トランプ)大統領の発言はまったく関係ない」と明言するが、トランプ政権への配慮であることは容易に想像がつく。米国第一を掲げるトランプ大統領は今年1月、メキシコに工場を建設しているトヨタに対してツィッターで「冗談じゃない。高い関税を払え」と名指しで批判。慌てたトヨタは、米国インディアナ州の工場やケンタッキー州にある工場での追加投資を相次いでまとめた。ただ、トランプ大統領は、トヨタに米国内への工場の新設を要請していた。

「米国リコール事件で公聴会に呼び出されたことがトラウマとなって米国政府の動向に敏感な豊田社長の主導のもと、今年の早い段階から米国内への工場新設を検討していたようだ」(全国紙・自動車担当記者)

 そのトヨタが米国内での生産拡大を検討しているなか、目を付けたのがマツダだった。

●トランプ政権の誕生というチャンス

 車の電動化や自動運転、コネクテッドカーなどによって、EV専業のテスラのほか、グーグル、アップル、アマゾンなど、異業種も自動車へ参入する見通しで、自動車産業は変革期を迎えている。こうしたなかでトヨタは、「新しい仲間を広く求めて競争し、協力しあっていくことが大切になっている」(豊田社長)との考えのもと、ダイハツ工業の完全子会社化、スズキとの提携の検討など、グループ戦略を拡大している。15年5月に環境技術や先進技術で業務提携しながら、具体的な成果が出ていなかったマツダもなんとか早いうちに自陣に引き込みたいとの思惑があった。

 そこに大きなチャンスが巡ってくる。メキシコから米国への自動車などをはじめとする製品の輸出が、米国での雇用を奪っていることを問題視し、NAFTA(北米自由貿易協定)見直しを表明していたトランプ政権の誕生だ。マツダは、グローバルで米国市場が主力市場のひとつだが、フォード・モーターとの合弁から撤退したことから米国内に生産拠点を持っておらず、主にメキシコと日本から米国市場向けに完成車を輸出している。トランプ政権がメキシコ製自動車に関税を課した場合、マツダ車が米国市場で競争力を失うリスクがある。

 そこでトヨタはマツダに手を差し伸べる。中堅メーカーのマツダが単独で米国に新工場を立ち上げるのは困難だが、トヨタと合弁なら投資を抑制できる。トヨタとしても米国にマツダと合弁で新工場を建設することは、マツダとの関係を深めると同時に、トランプ政権の要請に応えることにもなり一石二鳥だ。

 しかもトヨタは、建設中のメキシコ工場で生産する予定だったカローラを、マツダとの合弁工場で生産し、メキシコ工場ではピックアップトラック「タコマ」を生産する。生産機種の変更でメキシコ工場の稼働は19年から20年にずれ込むものの、米国市場はピックアップトラックが人気で、一刻も早くピックアップトラックの供給能力を増強するため、先に立ち上がるメキシコ工場でタコマを生産する。「トランプ政権がNAFTAを見直して関税を課しても、ピックアップトラックのタコマは付加価値が高く、カローラを生産して米国に輸出するより採算を確保できる」(業界筋)と踏んでいるとの見方も強い。

●高いハードル

 ただ、トヨタとマツダが本格的に連携を強化するためには、超えなければいけない高いハードルがあった。それは15年5月の業務提携の締結から続く、両社の開発部門などの現場の社員を中心とした「いがみ合い」や「妬み」だ。

 マツダの開発の基本方針は「内燃機関(ガソリンエンジン・ディーゼルエンジン)を徹底的に開発し尽くす」ことで、実際に低燃費・低排出ガスで他社に先行してきた。今後も内燃機関のモデルが市場の主力を占めると見ているためで、開発し尽くした後の内燃機関にモーターなどを搭載して電動化することを環境戦略に掲げる。トヨタが力を注ぐハイブリッドカー(HV)についても、開発の現場では積極的ではない。

「HVシステムを搭載するだけで何十万円も価格が上がるが、それに見合う二酸化炭素(CO2)削減効果は得られない。内燃機関を低燃費化したほうが消費者のためであり、より効率的」(マツダ関係者)

 また、トヨタが市販している燃料電池車(FCV)に対しても「あんなものが普及するわけがない」と言い切るマツダ関係者もいる。マツダの開発部門では、HVやFCVに力を注ぐトヨタを「お金があるところは、無駄なものに投資する余裕があっていいですね」と冷めた視線で見る。

 一方で、トヨタ側の開発部門にも抵抗がある。2年前の業務提携締結合意の記者会見で、豊田社長がマツダ車の環境技術やデザインを褒め称えたことに対して、トヨタの開発部門の多くが「(トヨタから見れば)弱小メーカーのマツダから学ぶことはない」と反発する声が広がったという。業務提携を結びながら2年間、具体的な成果が出なかったのは、経営トップ同士の思惑とは裏腹に、両社の現場の社員からの賛同を得られなかったことが主な理由とみられる。

 実際、豊田社長は今回の資本提携発表の記者会見で、2年前のマツダとの業務提携から得た一番大きな成果について「マツダに負けたくないという、トヨタの負け嫌いに火をつけていただいたこと」と嫌味を述べている。

●環境規制の強化

 ただ、グローバルで進む環境規制の強化が、両社を提携強化に駆り立てた。それがEVの普及に向けた動きだ。英国、フランスが40年以降、内燃機関車の販売を禁止する方針を打ち出したほか、インドや中国では、自動車メーカーにEVなどの環境対応車の一定以上の販売を義務付ける見通しだ。これに対応して自動車メーカー各社は一斉にEVの市場投入を本格化させる意向だ。フォルクスワーゲンとダイムラーは、EVの投入を加速し、25年までに世界販売の25%をEVにする目標を掲げる。

 トヨタは環境対応車としてHVを本命視、その後はPHVにシフトして、将来的なエコカーとしてはFCVが普及すると目論んでいた。EVは航続距離が短くて価格も高いことから都市部の輸送などに限られるとみていた。

 しかし、こうした予想は完全に外れる。HVは環境対応車として認められなくなり、EVが環境対応車の本命として浮上してきた。こうしたなか、トヨタは昨年12月に系列サプライヤーも巻き込んでEVの開発に本腰を入れ始めたが、出遅れ感は隠せない。マツダはマツダで内燃機関車に的を絞ってきただけに「想定していたよりも早いペースでEV化する可能性が出てきた」と焦りの色を濃くする。

 世界でEV化の流れが加速する危機感から、トヨタとマツダの経営陣は、提携を強化することで意見が一致。これを実現するためには、開発を中心とした現場の人間の理解が欠かせない。そこで資本提携に踏み込むことで合意した。

 資本提携では、トヨタがマツダに5.05%出資するとともに、マツダもトヨタに0.25%出資する。出資比率は大きく異なるものの、出資額は500億円と同額にした。マツダの社員には「トヨタとは対等の関係」であることを示し、トヨタの社員にはトヨタがマツダの第2位の株主で立場の違いを理解してもらうという、それぞれのプライドに配慮した。ただ、これでお互いのわだかまりが解消するのかは不透明だ。

 保護主義が台頭する米国戦略や各国で規制が強化される環境対策に背中を押されるかたちで、資本提携に踏み切ったトヨタとマツダ。自動車業界からは「EVに出遅れている者同士が手を結んでも怖くない。ここに(EVに遅れている)スズキやスバルも加わったらEV弱者連合の完成だ」と揶揄する声もある。

 両社が提携事業を成功に導くために融和できるかも含めて、トヨタとマツダの資本提携の成否は予断を許さない状況だ。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)