スマートフォン(スマホ)の次は電気自動車(EV)――。

 これは電子機器の受託製造サービス(EMS)の世界最大手である台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長の壮大な野望である。

 ホンハイは米アップルのスマホ「iPhone」の製造を受託し、中国の巨大工場で大量生産する事業モデルで大成功した。しかし、ホンハイは2016年度、1991年の上場以来初の減収になった。iPhoneの不振で、アップルからの受注が減ったからだ。戦略の見直しを迫られることになった。

 そしてポスト・スマホとして、次なるターゲットにしたのがEV市場だ。郭氏はメディアにこう述べていた。

「市場価格で1台1万5000ドル(約165万円)のEVを受託製造したい」

 EV市場に参入するには、米国に進出しなければならない。そんななか、ドナルド・トランプ米大統領の誕生でホンハイにチャンスが訪れた。トランプ氏は大統領選挙期間中、アップルのスマホの組み立て生産を請け負うホンハイに対して、「米国の雇用を奪っている」と激しく批判した。この時、助け船を出したのがソフトバンクグループ社長の孫正義氏だ。

 トランプ氏が大統領に当選すると、孫氏は中国のIT(情報技術)会社、アリババ会長のジャック・マー氏と共にトランプタワーを訪れトランプ氏に直接、米国での投資計画を伝えた。孫氏は、500億ドル(約5兆7000億円)の投資と5万人の雇用確保を約束した。

 この時、孫氏が示したプレゼン資料の中に、ホンハイの投資内容についての記述があった。米国メデイアは孫氏とマー氏、それに郭氏の3人を、トランプ氏のアメリカン・ファースト政策を後押しする「東アジア三銃士」と持ちあげた。

 郭氏は7月26日、ホワイトハウスでトランプ氏と共に、米ウィスコンシン州で100億ドル(約1兆1000億円)を投資し、液晶パネル工場を建設すると発表した。新工場の投資は3000人の雇用を生み、将来は1万3000人に増える可能性があるという。郭氏とトランプ氏が握手するシーンが全世界に流れた。

●ホンハイ、EV戦争に参入か

 ホンハイは傘下に収めたシャープと世界最大級の液晶工場を建設、テレビまで一貫製造する。

 トランプ氏は8月1日、企業関係者を集めた会合で、「ホンハイの郭台銘董事長からオフレコで、米国で300億ドル(約3兆3000億円)を投資する計画だと、伝えられた」と話した。これを受けてホンハイは翌2日、「米ウィスコンシン州での投資は米国投資計画の第一歩にすぎない」という声明を出し、トランプ氏に呼応した。

 300億ドルの投資がもし本当なら、液晶関連ではないはずだ。郭氏が意図しているのは、EV工場への投資の可能性が高い。

 日本経済新聞は「鴻海は、電気自動車(EV)やコネクテッドカー(つながる車)分野の開拓を加速する。郭台銘董事長が、このほど米国で新たな研究開発拠点を設ける構想を表明した」と伝えた。

 英仏政府が2040年にエンジン車の販売を禁じる方針を示し、EV時代到来の機運が高まってきた。

 米EVベンチャー、テスラは7月28日に、普及価格帯の新型EV「モデル3」を鳴り物入りで発売。自動車メーカーの仲間入りを果たした。アップルや米グーグルのIT企業もEVに参入する。

 自動車産業とIT産業によるEV戦争の帰趨を握るのは自動運転技術といわれている。多くの自動車メーカー、ITメーカーが自動運転技術の開発を急いでいる。

 IT企業は工場を持たない「ファブレス経営」だ。設計や技術開発、研究開発に専念して、生産は他社に委託する。

 受託製造はホンハイのお家芸だ。スマホの製造受託からEVの製造受託へ――。郭氏が米国投資を加速させる狙いは、ここにあるといえるだろう。
(文=編集部)