電子レンジは冷凍食品の解凍だけでなく、食材を加熱して調理時間を短くするというメリットがある。家庭生活には欠かせない電化製品だが、電子レンジの使用は「手抜き」のイメージがまだ根強く、飲食店で使えばマイナスイメージを持たれてしまう。

 このような風潮を一蹴するかのごとく、電子レンジ調理を売りにする飲食店が福岡県に登場した。その名も「Bistro Ren-Chin!(ビストロ レンチン)」で、冷凍・チルド食品をアレンジした料理を提供している。

 電子レンジを使っていることが暗黙の了解になっているファミリーレストランやファストフードでさえも、あえて公言しないというのに、なぜこのように大胆なコンセプトを打ち出したのか。同店の企画を務める、CMプランナーの曽我将氏に話を聞いた。

「当店の料理担当のタケムラダイは『レンチン料理研究家』で、冷凍食品を電子レンジで温めて提供する店をやりたいと言っていたのです。おもしろい発想ではあるのですが、ただレンチンするだけでは自宅で食べるのと変わらないし、カウンター5席程度のこぢんまりとした店が限界だと感じました。そこで、冷凍食品を電子レンジ調理するというコンセプトはそのままに、ひと手間加えてアレンジするスタイルを考えたのです」(曽我氏)

 使用する食材は、すべて冷凍・チルド品とのこと。スーパーマーケットでも販売されている一般的な冷凍食品もあれば、業者から取り寄せたものもある。これらを解凍・加熱して盛り付け直すのではなく、調味料などを加え本格レストランさながらのメニューを開発していったという。

 さらに同店には、「食品ロスゼロを目指す」というコンセプトも込められているという。

「冷凍・チルド食品は手軽というだけでなく、食材のロスを防ぐことができます。現在、食べられる食品を廃棄する“食品ロス”が世界で問題になっており、日本も例外ではありません」(同)

 飢餓で苦しむ国への1年間における世界の食糧援助は332万トンにも及ぶが、日本ではその約2倍の量となる500〜800万トンもの食品を廃棄しているという。
※出展『農林水産省資料「食品ロスの削減に向けて」(平成24年10月)』、『外務省資料「国連世界食糧計画(WFP)の概要」(平成25年3月)』

 こうした食品ロスの問題を解決するためにも冷凍・チルド食品の使用は役立つほか、すべて電子レンジやオーブントースターのみで調理することで、清掃がしやすくなり衛生的にもプラスだと感じているという。さらに、在庫管理がしやすいなど、「実はメリットが多い」と曽我氏は指摘する。

●レンチン料理のデメリットは?

 同店ではガスコンロや包丁は使わず、すべてレンチン料理だが、そのことに対するお客の反響はどうだろうか。自身もホールで接客を務める教育担当の山本周平氏によれば、「レンチン調理と気づかない方も多い」という。

「(当店の料理は)お客さまに好評ですが、一般的には冷凍・チルド食品に対してマイナスイメージを抱く方が多いのではないでしょうか。母親が冷凍食品を食卓に出せば、『子どもに悪い』『手抜き』などと批判されることもありますよね。しかし、現在は保存料無添加の商品もありますし、味も一昔前と比べてレベルアップしています。私たちがあえてレンチンをコンセプトとして打ち出すことで、冷凍・チルド食品全体のイメージアップにもつながればうれしいです」(山本氏)

 これだけメリットが多いならば、業態をマネされるリスクは当然、出てくる。だが、同店でもこうした懸念は検討済みだ。料理だけでなくワインや接客にもこだわりをプラスすることでオリジナリティを創出しているという。

「ワインを劣化させずに使い切る、特別なサーバーを導入しています。そのため、通常はボトルでしか提供されない、オーパスワンのような高級ワインをグラスで提供することが可能になりました。

 サービス面では、担当制のオペレーションを導入しています。また、お客さまが『楽しい』『うれしい』と感じたら1枚100円のチップを購入していただくシステムを採用し、サービスの質の向上にも努めています」(同)

 さらに、アニメ『ウサビッチ』(MTV Japan)の監督などを務めた富岡聡氏にオリジナルキャラクター「レンチンくん」のデザインを依頼し、“レンチンの店”の元祖として印象付ける工夫をしている。

 従来、飲食店にとって冷凍食品や電子レンジの存在は、客には隠しておきたい秘密だった。しかし、デメリットだけでなくメリットも多く、これをうまく活用すればビジネスチャンスに変換できるということを同店は体現している。

 デメリットを払拭できるほどのメリットを見つけること、そしてそれを大きく訴えること。ここに、新しいビジネスのヒントが隠されているといえそうだ。
(取材・文=OFFICE-SANGA)

取材協力:Outgrow Japan