2年前の凋落のイメージを覆すかのごとく、シャープの業績は好調だ。

 シャープといえば日本有数の大手電機メーカーであったが、経営危機に陥り、2016年に台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業に買収された。だが1月31日発表の2018年度第3四半期決算では、売上高が前年同期比22%増の1兆8294億円、営業利益は同約4倍の703億円という、V字回復といえる数字を叩きだしているのだ。

●テレビが中国で爆売れ、存在感薄れていたスマホ復活

 なかでも液晶ディスプレイやテレビの販売を手掛けるアドバンスディスプレイシステム事業が注目を集めており、売上高は同38%増の8363億円。液晶テレビに関しては台数、売上高ともに約2倍で、各事業のなかで最も伸び率が高く、同事業がシャープ全体の売上高の約45%を担っている。鴻海グループの営業力を活かし、中国市場で劇的に販売台数を伸ばしていることが液晶テレビ爆売れの要因だという。

 また、携帯電話の分野でも国内シェアを伸ばしている。2017年の国内携帯電話端末のメーカー別出荷台数シェア(2月13日、MM総研発表)を見ると、圧倒的1位を獲得したのはiPhoneを擁するアップルだが、なんとソニー(3位)、京セラ(4位)、富士通(5位)をおさえシャープが2位となっているのである。シャープは昨年、フラッグシップモデルのブランドを「AQUOS R」に統一しており、ブランド力を高めたことが功を奏したようだ。

 かつての凋落劇から一転、このようなV字回復を成し遂げた理由はいったいどこにあるのか。また、今のシャープは果たして本当に「復活した」といえるのだろうか。

 今回は『シャープ「企業敗戦」の深層 大転換する日本のものづくり』(イーストプレス)の著者であり、技術者としてシャープに33年間勤務した後、現在は立命館アジア太平洋大学名誉教授を務める中田行彦氏に話を伺った。

●鴻海流の経営に移行したことが間違いなく好調の要因

 V字回復を成し遂げたシャープだが、鴻海傘下に入ったことが、どの程度の影響力を及ぼしていたのだろうか。

「シャープのV字回復の要因は、鴻海流経営となったおかげです。そもそもシャープが鴻海に買収されるほど経営不振に陥っていたのは、以前のシャープが市場の変化に対応できていなかったためです。鴻海流の経営で現在の世界市場に対応するようになったことが、間違いなく現在の好調の理由です」(中田氏)

 その鴻海流の経営とは、「経費削減とスピード経営」だと中田氏は続ける。

「もともと鴻海は、アップルを重要顧客として持っているほど高い生産技術のある企業ですが、EMS(製造受託サービス)は利益率が非常に低く、自社ブランドもないといった点を課題として抱えていました。一方、シャープは研究開発に強みを持っている企業。そのため両者が組めば、シャープが研究開発し、鴻海が生産を担い、そして鴻海の販売網を使って販売をするといった強力な補完関係が生まれます。

 そして、このようなお互いの強みを発揮することにより、鴻海はシャープを1年以内に黒字化することを絶対的な目標としていました。そのために行われた経営戦略が経費削減とスピード経営です。まず、かつて日産自動車を復活させたカルロス・ゴーン氏を彷彿させる徹底した経費削減を敢行しました。また、買収前は月1、2回だった経営戦略会議を、事業部などの要請により随時開けるようにし、またテレビ会議システムや電子黒板を導入して、意思決定の迅速化を図ったのです。

 こうして、経費削減を行いつつスピード経営の体制を整えたことが、経営の黒字化という結果を招いたのです。鴻海の当初の計画通り、現在はシャープと鴻海がお互いの強みを補完しあって利益を出すところまでたどり着きました」(同)

●それでもまだシャープは“完全復活”とはいえない

 鴻海流経営戦略により黒字へと転換したシャープだが、「シャープは復活した」といっていいのだろうか。

「まだ、“完全復活”とまではいえないでしょう。補完し合って利益を出すところまではきていますが、その先はどうなるのか、という問題があるためです。今はシャープと鴻海がそれぞれ得意分野を活かした、いわば分業で利益を出すことが多いのですが、“完全復活”のためには、シャープと鴻海が組んで新しいビジネスの価値を生み出す必要があります。

 シャープの元副社長で、世界初の手のひらサイズ電卓『QT-8D』の開発者としても知られる佐々木正氏が、常々口にされていた『共創(きょうそう)』という言葉があります。今のシャープに必要なのはまさにその『共創』であり、新しい価値を鴻海と共に創りあげていくことが必要だと私は思います。

 たとえば現在、シャープは2018年度の液晶テレビの世界販売台数を、シャープや鴻海の自社ブランドだけで1000万台とする計画を打ち出しています。これは、一番大きなマーケットである新興国に向けてテレビを販売しないと実現できないと考えています。そのためにはシャープが単体で4K、8Kのテレビをつくればいいというわけではなく、どういうマーケットに対してどういう商品をつくればいいのかを、鴻海と共創していかないといけないでしょう。それがシャープの今後の課題ではないでしょうか」(同)

●自前主義のプライドを捨て、アジア諸国と連携すべき

 単にお互いの強みを補完し合うだけではなく、シャープと鴻海が共創しないと今後は厳しいということだが、近年の大手電機メーカーの不調はシャープだけに限った話ではない。

 日本のものづくり産業のあり方について、中田氏はこう述べている。

「日本はアジア諸国と提携したものづくりをしないといけない時代になってきています。かつて鴻海と共にシャープ買収に名乗りを上げた産業革新機構は、技術流出を防ぐために、ジャパンディスプレイ(JDI)と統合することで、『日の丸液晶連合』をつくろうと想定していましたが、今のJDIは破綻寸前の状態です。技術流出を恐れて、国内だけの自前主義でやっていこうとしていると、グローバル競争で勝つことができないのです。

 シャープが鴻海に買収された際、『日本企業が台湾企業に買収されて情けない』などとも言われていましたが、私はまったくそうは思いませんでした。日本の企業がアジアの企業とどう連携し、新しい価値を生み出していくのか、今後はそこが最も重要だと考えています」(同)

 鴻海によって生まれ変わったシャープのように新しい風を受け入れ、変わり行く時代に対応することが日本メーカーには必要なのかもしれない。
(文・取材=A4studio)