今、国内化粧品業界は岐路に立たされている。

 海外では、「コスメ(メイク)」と「アパレル」がリンクし、ファッション業界として機能している。ところが国内化粧品業界は、医薬品業界から派生した業界という位置づけが強い。そのため、アパレル業界との連携が海外ほど進んでいない。これが日本のファッション業界全体が伸び悩んでいる原因との指摘もある。

 そこで今回、美容セミナー講師の大澤典子氏に、美容界での視点から「コスメとアパレルの融合」について話を聞いた。

 日本で活躍するメイクアップアーティストの歴史と今、そしてアパレルとの関係を紐解くことで、業界市場規模約2.6兆円、すでに頭打ちといわれる国内化粧品業界がこれからとるべき道のヒントが見えてくる。

●海外で評価された日本人メイクアップアーティスト

――3月に行われた第90回アカデミー賞で、メイクアップアーティストの辻一弘氏が「メイクアップ&ヘアスタイリング賞」を受賞し、話題になりました。辻氏のほかにも、海外で活躍する日本人メイクアップアーティストはいるのでしょうか。

大澤典子氏(以下、大澤) まずは「シュウウエムラ」創業者の植村秀さんが挙げられます。当時、衝撃的だったオイルクレンジングという概念を50年前に初めて日本に広め、市場に定着させました。すでにご本人は他界されていますが、そのブランドはしっかり継承され、今なお色あせていません。今年も「フレッシュクリア サクラクレンジングオイル」が発表されましたが、一般人に「アーティストからの提案」を届け続ける数少ないブランドです。

――その植村秀氏に師事したのが、タレントとしても知られるトニー・タナカ氏ですね。

大澤 1948年生まれのトニー・タナカ氏は、大手エステ創業者として知られる、たかの由梨さんと同世代です。終戦直後モンペ姿だった日本の女性たちが、後にスカートを履いて活躍すると直感して、米軍基地の美容室で少年時代の多くの時間を過ごしたといわれています。ハリウッドで経験を積み、自身もタレントとして活躍されたことを踏まえると、近年の日本人メイクアップアーティストが活躍する素地を築いた方といえるかもしれません。

――女性では誰かパイオニア的存在といえる方はいるのでしょうか。

大澤 男性にはあまり馴染みがないかもしれませんが、「RMK」ブランドで知られるRUMIKOさんが挙げられます。欠点を覆い隠す化粧ではなく、「素肌の魅力を生かす」「その年齢なりの美しさ」を掲げ、“自然の美を引き出すメイク”として知られています。それまでの美容界の概念を大きく変えた方といってもいいでしょう。RUMIKOさんのつくった商品だけではなく、生き方・働き方に影響を受けた女性も多いと思います。

――若い世代の間で、特に注目されている方はいますか。

大澤 タレントとしても人気のTAKAKOさん、それから僧侶でもあるKodo Nishimuraさんも根強いファンがいます。この2人は若い世代も含めて注目株ですね。

●美容界からみたアパレル、メイクの2018年のトレンド

――ファッションの世界では、パリ・コレクションなどのショーに出てくるスタイルが、一般の人へと普及してきます。メイクの世界では、どのようにして一般の人に伝わっていくのでしょうか。

大澤 国内化粧品メーカーの商品開発担当者は、来期のファッショントレンドももちろん把握しています。展示会に出かけ、専門家のセミナーにも参加、新聞・雑誌などの写真を切り貼りした「トレンドボード」を作成して、チーム内で次期トレンドを視覚的に共有します。ファッションデザイナーが服に込めた気分やメッセージを感じ取って、メイク商品に反映させます。特に、色と素材については分析に余念がありません。

――2018年をメイクやファッションの世界では、どのようにとらえられていますか。

大澤 「2018年は、混沌とした時代の中に希望を見出す年」という表現が目に付きました。そんな願いを反映して、18年春夏の流行色は「淡くて優しい色合いのパステルカラー」とされています。なかでも注目されているのが、ピンクとグリーンです。ランコムの新色アイシャドウパレットは、グリーンが目を引く逸品として話題です。

――ピンクは春メイクの定番で、毎年はやっているようにも見えますが、違いはあるのでしょうか。

大澤 確かにそうなのですが、年によって少しずつニュアンスが変わります。たとえば、バブル期に流行していたパール感の強い「青みピンク」は、今ではなかなか目にすることはなくなりました。「ピンク」と一口にいっても、時代や年によって“はやり・すたり”があるのです。今季は「ピーチピンク」といわれる優しげな色合いが流行色です。この色は口紅やチークにも反映しやすく、取り入れやすいでしょう。

――ファッションとメイクの関連付けが上手なファッションブランドはあるのでしょうか。

大澤 老舗では、シャネルやイヴ・サンローランですね。多くの女性たちを魅了し続けるブランドであり続けるのは、やはりファンションとメイクをトータルで捉えているからといえます。

――老舗ブランド以外でもファッションとメイクの関連付けが巧みなところはありますか。

大澤 ジル・スチュアートです。ファッションでは、この春トレンドのピーチピンクを前面に押し出している印象です。もともとジル・スチュアートはピンクをはじめとしたパステルカラーが得意なブランドですから、今季のトレンドは追い風といえます。たとえば、コレクションのメインビジュアルには、透け感があるピンクのブラウスが出ています。メイクのほうも可憐なピンクを基調としたチークやリップ、アイシャドウの新色を発表しています。ファッションとメイクがしっかりリンクしています。

――ありがとうございました。

●化粧品とアパレルのリンクが両業界にシナジー効果をもたらす

 世界レベルでその商品性の高さが知られる国内主要化粧品メーカー各社だが、海外ブランドと違い、アパレルとのリンクは、いまひとつうまくいっていないのが現状だ。国内化粧品、アパレルメーカーが手を携えた同一ブランドの立ち上げや、コスメとアパレルのトータルコーディネイトを提唱することで、両業界それぞれにシナジー効果も見込まれるはずだ。

 海外で活躍する日本人メイクアップアーティストや日本人ファッションデザイナーといったソフト面を軸に、まずは国内化粧品業界とアパレル業界のリンクを図ることが、双方の浮揚策となるのではないだろうか。
(構成=編集部)

●大澤典子
ビジネスメイク研究所代表。1974年、東京都生まれ。白百合女子大学卒業後、カネボウ化粧品に入社。同社に15年勤めた後、全国の企業・団体で講演、セミナー、研修を行う。「骨格から見た長所」と「再現しやすいテクニック」をわかりやすく伝えるメイクアドバイスが、働く女性に好評を博している。