ベンチャー企業やIT系企業を中心に、スーツを着用しないビジネスパーソンが増え、昨今はスーツ離れが叫ばれる。そのあおりを受けて、紳士服専門店の苦境が鮮明になっている。

「洋服の青山」を展開する青山商事、「AOKI」を展開するAOKIホールディングス、「はるやま」を展開するはるやまホールディングス、「紳士服コナカ」を展開するコナカの、大手4社の2017年度決算(18年3月期、コナカのみ17年9月期)が出そろった。

・青山商事:売上高2548億円(前年比0.8%増)
・AOKI:同1984億円(同2.3%増)
・はるやま:同570億円(同2.0%増)
・コナカ:同681億円(同2.2%減)

 4社中3社が増収なので悪くないように思えるが、詳細を見てみると、スーツ市場を取り巻く環境は厳しい状況にあることがわかる。

 青山商事とAOKIは、飲食店やカラオケ店など紳士服店以外の業態店も多く保有しており、それらが全体の業績を押し上げた一方、スーツを主力とする事業に関しては伸び悩みを見せている。青山商事のスーツを主力とするビジネスウェア事業の売上高は前年から横ばいの1887億円、AOKIのスーツを主力とするファッション事業の売上高も横ばいの1184億円と、それぞれ伸びていない。

 各社の既存店売上高は伸び悩んでいる。17年度は、青山商事のビジネスウェア事業が前年度比0.2%増、AOKIのファッション事業が0.2%増、コナカが4.0%減、はるやまが1.1%減だった。はるやま以外は客単価が増加したものの、それでも客数の大幅な減少を補えなかった。客離れが深刻な状況にある。

 団塊世代の大量退職やクールビズの普及、カジュアルな装いで仕事をする人が増えたことなどで、スーツ市場は縮小している。

 総務省の家計調査によると、1世帯当たりの背広服への年間支出額は16年が4262円で、近年はおおむね横ばいで推移しているが、08年の6807円と比較すると4割弱減った。00年の8782円からすると半分以下になっている。ワイシャツとネクタイも大幅に減っており、16年のワイシャツへの支出額は1480円と00年から4割以上減り、ネクタイは455円と同3分の1ほどに減った。

 青山商事など紳士服専門店大手は、かつて高価なイメージがあったスーツを3万〜4万円程度の手頃な価格で販売し、順調に店舗を増やしていった。さらに、青山商事が「ザ・スーツカンパニー」、AOKIが「オリヒカ」(旧スーツダイレクト)、コナカが「スーツセレクト」、はるやまが「パーフェクトスーツファクトリー」を00年ごろに立ち上げ、2万〜3万円程度でスーツを販売するようになった。「1万9000円と2万9000円」といった「ツープライス」と呼ばれるわかりやすい価格設定や手頃な価格が受け、若者を中心に支持を集めた。

●紳士服市場が縮小するなか、競合も乱立

 そんななか、紳士服専門店以外でも低価格を売りにしたスーツを販売する企業が出現し、頭角を現している。

 大型スーパーがその筆頭格だろう。イオンはプライベートブランド(PB)「トップバリュ」でスーツを販売。価格は安いもので1万3000円(税別、以下同)程度だ。イトーヨーカ堂は紳士服のPB「ビジネスエキスパート」でスーツを販売。価格は安いもので1万円程度となっている。価格だけ見れば、どちらも紳士服専門店に勝るとも劣らない。

 また、ユニクロはセットアップとしても着用できる「感動ジャケット」と「感動パンツ」を販売している。上下合計でも1万円以下と低価格だ。また、色柄やシルエットなどをセミオーダー感覚で選べるジャケットを1万4900円、セットアップできるパンツを5990円で販売している。合計で2万890円と、こちらも手ごろな価格となっている。

 こうした低価格でスーツを販売する衣料品店が増えたこともあり、スーツ市場は一層厳しさを増している。さらに、少子化の進行に加え、オフィスカジュアルの普及も進むことが予想され、今後も厳しい環境が続くだろう。紳士服各社は、スーツ事業以外の収益源の構築が急務といえる。

 現在、AOKIは結婚式場とカラオケボックス、複合カフェの非アパレル事業が連結売上高の4割を占め、スーツ事業以外の収益源の構築が進んでいる。特に複合カフェ事業は大きく伸びており、17年度の売上高は前年比13%増の341億円だった。複合カフェ「快活クラブ」の店舗が増えたほか、既存店売上高が前年を上回ったことが寄与した。売上高は12年度からほぼ倍増している。

 ただ、結婚式場とカラオケボックスは予断を許さない状況だ。結婚式場事業の17年度の売上高は271億円だったが、14年度の309億円からは12%減っている。結婚する人が減ったほか、結婚式・披露宴にあまり費用をかけない人が増えたり、披露宴を開かないなど結婚前後のイベントを省略する「地味婚」が普及していることも大きく影響した。AOKIのカラオケボックス事業の17年度の売上高は186億円だった。かつては成長していた事業だったが、15年度に182億円を売り上げてからは横ばいで推移。頭打ち感が漂っている。

 青山商事は、フランチャイズ(FC)契約でさまざまな事業を展開している。「ダイソー」を展開する大創産業の加盟店として100円ショップを運営するほか、中古品店「セカンドストリート」や焼き肉店「焼肉きんぐ」、ジーンズ販売店「リーバイスストア」、カジュアル衣料品店「アメリカンイーグルアウトフィッターズ」などをFC展開している。また、15年末に靴修理などの「ミスターミニット」を運営する会社を買収した。現在のビジネスウェア事業以外の売上高の割合は26%だが、将来的には40%にまで高める考えを示している。

 コナカは、とんかつ店「かつや」とから揚げ専門店「からやま」をFC展開するほか、英語を学ぶ学童保育「キッズデュオ」を運営している。

 はるやまは昨年、持ち株会社に移行し、スーツやカジュアル衣料の子会社をぶら下げる組織にしてアパレル以外の分野にも進出しやすい体制を整えた。今後は多角化を図っていくものとみられる。

 スーツビジネスが限界を迎えつつあるなか、紳士服大手各社は多角化で生き残りを図ろうとしている。確かに多角化は避けて通れない道だが、本業のスーツビジネスに成長の余地がないわけでもないはずだ。たとえば、衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイが提供する衣料品の採寸用ボディースーツ「ゾゾスーツ」のようなものを開発し、オーダーメイドのスーツをネット販売するといったことが考えられる。多角化に加え、本業のスーツ事業の強化も必要だろう。

 いずれにしても、今後の成長を実現するには、今までにないアイデアが求められているといえそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。