日産自動車は会長のポストを当面“空席”とする。カルロス・ゴーン被告が一手に独占していた会長職と取締役会議長職を分離し、新しい議長には「ガバナンス(統治)改善特別委員会」の共同委員長である日本経済団体連合会(経団連)前会長の榊原定征氏を起用する。繊維・化学の東レ出身で自動車業界の門外漢である榊原氏が就くとすれば、“お飾り”だとの批判もある。

 当初、仏ルノーは日産会長の椅子を死守する構えを見せていたが、ルノー会長のジャンドミニク・スナール氏が3月12日、日産の会長職を求めず、取締役会副議長になる意向を表明したことにより、日産は会長のポストを空席にしやすくなった。社外取締役が取締役会議長になることにより、「組織運営の透明性が高まる」と社内外にアピールできる。会長職を空席にしても、実務面での影響は少ないと判断したのだろう。

 6月末の定時株主総会では西川廣人社長兼CEO(最高経営責任者)は続投の方向だ。「ミニ・ゴーン」「ゴーン・チルドレン」の最右翼と揶揄されてきた西川氏が、ガバナンス上のお咎めなしというのはおかしいのではないかとの指摘も多い。すんなり社長兼CEO続投を決めていいのか、議論を呼ぶ可能性はある。

 日産とルノーは“休戦協定”を結んだため、今年の定時株主総会でのトップ人事(会長・社長)はないと考えられる。そうすると、おそらく2020年の定時株主総会が“決戦”の場となる。ゴーン被告がトップ候補を育成してこなかったため、“ポスト西川”は見当たらない。次期社長は内部昇格なのか、外に人材を求めるのかの厳しい選択が待っている。

 今年の秋から冬にかけて、経営統合の火が再び燃え盛る可能性が高い。日産のトップ人事をどうするかで、日産とルノーの意見の相違があらわとなるとみられる。

●「不可逆な関係」は追求とルノー会長

 スナール氏は日本経済新聞と仏紙フィガロの共同インタビューに応じ、「仏政府から日仏連合を後戻りできない『不可逆な関係』にするよう求められた」(3月18日付日経新聞)ことを明らかにした。

「仏政府の代表者が私に『不可逆な関係』という言葉を使ったかどうかはわからないが、そういう趣旨だった。私は自明なことだと感じている」(同)

「仏政府が言っている『不可逆』とは資本関係の見直しのことか」との問いには、「そうかもしれない。ただそういう話は(日産と)していない」と慎重に言葉を選んだ。

 また「新しい合議体によって連合は『不可逆』になりますか」との問いには、「十分かわからないし、うぬぼれてはいけない。ただ、不可逆にする意思を強く示している」と答えた。スナール氏は「不可逆」な関係の構築を追求することを強く示唆した。

 このインタビューで注目されたのは、22年に1400万台を販売するという中期目標を「数カ月のうちに計画を定義し直すだろう」と語った点だ。ゴーン被告の闇雲な拡大路線を軌道修正し、現実的な中期目標に変更するということだろう。「1400万台以上にする」ということは、16年の販売実績の4割増に当たる。計画を公表した当初から「数字だけが一人歩きしている」(関係者)と指摘されていた。

 数字至上主義だったゴーン被告の経営のカジ取りを修正することになったのは、米国や最大の自動車市場となった中国で苦戦を強いられている現実を直視したためだ。一歩前進といえる。中期の販売目標を下方修正することになるだろう。

●暫定指名委を設置

 日産は3月29日、6月の定時株主総会に向け、取締役候補の選定や役員報酬の検討を行う「暫定指名・報酬諮問委員会」を設置すると発表した。社外取締役を務める3人がメンバーとなる。同日開いた臨時取締役会で設置を決めた。

 委員長には、レーサーで社外取締役の井原慶子氏が就く。経済産業省出身の豊田正和氏、ルノー出身のジャンバプティステ・ドゥザン氏の両社外取締役が委員を務める。榊原氏や米ハーバード大ロースクールのシニアフェローら3人をアドバイザーに選んだ。

 暫定委は、ガバナンス改善特別委員会の提言に沿って新たな取締役候補を選ぶ方針だ。11人程度の取締役候補のうち過半数は社外とする方向で5月中に人選をしたい考え。海外からも取締役を招請する。

 最大の焦点は、西川氏ら現経営陣の処遇だ。特別委は西川氏の責任について直接言及を避けたが、暫定委も西川氏の続投を認めるのかにかかっている。西川氏続投の線が崩れると、日産vs.ルノーの対立の火が一気に大きくなり、“休戦協定”など吹き飛んでしまう。
(文=編集部)