3月初旬にスイスのジュネーブで開催されたモーターショーで、三菱自動車は「エンゲルベルクツアラー」というコンセプトカーを発表した。テーマは「リゾート地でのシーンにふさわしい、上質かつ機能的なオールラウンドクロスオーバーSUV」で、動力系はツインモーター4WDのプラグインハイブリッド(PHEV)。室内は3列のシートを備えて、多人数乗車可能なパッケージングとしている。

 あくまでコンセプトカーなので、このデザインがそのまま将来登場する市販車になるわけではない。しかし、なんらかのかたちで市販車に反映されることになるだろう。

 筆者は、実車を見てまず「パジェロ」の次期型を示唆しているのではないかと感じた。その理由は、角ばった無骨なデザインがパジェロの世界観を表していると思えたからだ。パジェロという悪路走破性の高いクルマにふさわしい力強さがみなぎっている。

 パジェロは、かつてバブル期の日本で大ヒットし「クロスカントリーカーブーム」のきっかけとなった車種。強靭なメカニズムによる高い悪路走破性も自慢だった。あいにく昨今は世の中の嗜好の変化を大きく受けて販売台数が落ち込んでいるが、今でも三菱自動車を代表するモデルであることには変わりない。三菱自動車のSUVラインナップのフラッグシップといえる。

●なぜパジェロはモデルチェンジしないのか?

 ところが、現地で三菱自動車の関係者から話を聞いたところ、このコンセプトカーはパジェロとは関係ないことが判明した。車両関係者は明言こそしないものの、言葉の裏を読めば「パジェロではない」というニュアンスを伝えてきたからだ。

 彼らは「3列シートのプラグインハイブリッド」を強調する。三菱自動車のラインナップでそれに該当するのは……「アウトランダー」である。現行型のアウトランダーには「3列シートのプラグインハイブリッド仕様」こそないものの、「3列シート」と「プラグインハイブリッド」は存在し、次期モデルでは3列シートのプラグインハイブリッドも企画していると考えていいだろう。

 それはそうとして、ふと気になってくるのは、果たしてパジェロがいつモデルチェンジを迎えるのかということだ。現行型パジェロ(4世代目)は2006年のデビューなので、もはや12年以上が経過している。12年といえば、クルマによっては2回モデルチェンジすることもある長さなのだ。しかも、その基本設計は1999年にデビューした3世代目に準じているので、実質的には20年前のモデルということになる。気がつけば、驚くほどの長寿命モデルとなっているのだ。

 一般的に、車体は設計してから20年程度たつと、年々厳しくなる衝突安全性能への対応が難しくなってくる。また、基本設計が古いと先進技術の投入も難しいため、残念ながらパジェロには今時の自動車には必須といえる装備の「衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)」が用意されていない。

 果たして、パジェロはいつになったらモデルチェンジをするのか? 長きにわたりモデルチェンジをしない理由は、どこにあるというのだろうか?

●パジェロが抱える大きな“ジレンマ”

 実は、パジェロは大きな悩みを抱えている。単刀直入に言うと「市場が求めるパジェロ」と「つくりたいパジェロ」がすれ違っていることだ。

 現在、パジェロの大きなマーケットは中東地域などである。そこでパジェロが好まれる理由は「丈夫で悪路走破性の高いクルマがリーズナブルに買える」から。長くつくり続けたことで開発などにかかった減価償却が済み、トヨタ自動車「ランドクルーザー」などに比べて手の届きやすい価格で売られているのだ。言い換えれば「性能が良く安いのでコストパフォーマンスに優れる」ということで、ランドクルーザーとは異なるユーザー層に愛されているといえる。

 一方で、三菱自動車としては、新型パジェロを開発するのであれば「三菱のフラッグシップモデルとして世界最高水準の悪路走破性を備えた究極のオフローダーにしたい」と考えている。しかし、それを実現するクルマにつくり上げると車体にコストがかかり、今のような価格では販売できなくなってしまう。それはすなわち、中東などでの現在の「コスパに優れた本格オフローダー」というポジションを失ってしまうことを意味しているのだ。それが、パジェロが抱えるジレンマである。

 現実と理想のズレが解消されないと、次期パジェロの開発にゴーサインは出ないのだ。実は、現行パジェロが12年以上も売り続けられている間に新型パジェロの開発プランが数回浮上したという。しかし、このジレンマにより開発が進むことはなかったのが現実だ。

●次期パジェロ開発のカギは日産との連携か

 ところで、昨今ニュースをにぎわせているように、三菱自動車は日産自動車の傘下に入っている。筆者は、ここに次期パジェロ開発の糸口があるように思える。提携している会社同士が車両のメカニズムを共用するのは一般的な話(たとえば、ルノーと日産では車体の基本設計を共用するクルマも少なくない)なので、日産の本格四輪駆動車とパジェロの車体の基本構造を共通設計とする方法だ。

 現在の日産車をベースにするのはさすがに無理があるので、日産の次期モデルを開発する際にパジェロの要件も盛り込んで、それを活用し新型パジェロの開発プロジェクトを進める方法をとるべきではないだろうか。

 いつの日か、市場のニーズと三菱自動車の理想を両立する新型パジェロがデビューすることを願わずにはいられない。
(文=工藤貴宏/モータージャーナリスト)