「プロ経営者」は、たった1年でRIZAPグループを去る。

 減量ジムを展開するRIZAPグループは4月24日、プロ経営者として知られる松本晃氏が構造改革担当の取締役を退き、6月22日付で特別顧問となると発表した。併せて、住友商事元副社長で、情報システム会社SCSKの社長、会長を歴任した中井戸信英氏が、新たに取締役会議長に就く人事を内定した。

 松本氏は2018年6月、瀬戸健社長に請われてRIZAPグループの代表取締役最高執行責任者(COO)に就いた。相次いだM&A(合併・買収)を凍結、不採算事業の整理を進めるなど拡大路線に歯止めをかけた。同年10月にCOOを外れ、19年1月には代表権を返上していた。

 松本氏は「緊急的に実行すべきものはめどが立ち、一定の役割を果たすことができた」とのコメントを発表した。しかし、これはあくまでも建て前。“瀬戸商店”から脱皮しようとしない瀬戸社長に見切りをつけたというのが真相だとみる向きも多い。就任時に公約を掲げた「瀬戸健社長を一流の経営者に育てたい」との旗もたたんだ格好だ。
 
●M&A路線をめぐる壮絶バトル

 松本氏は伊藤忠商事、米ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人を経て、2009年にスナック菓子最大手、カルビーの代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)に就任。シリアル商品「フルグラ」を大ヒットさせ、業績不振に喘いでいたカルビーを再生させた。凄腕の松本氏が、カルビー退社後に新天地として選んだのがRIZAPグループだった。

 18年6月、RIZAPグループのCOOに就任。傘下の子会社を見て回った上で、瀬戸社長に「新規のM&Aを全面凍結し、収益を上げられる事業に絞り込むなど体制の再構築」を提案した。当時、瀬戸氏は「毎月10社を資産査定し、平均1社を買収する」と豪語していた。

 松本氏の進言に瀬戸社長はなかなか首を縦に振らなかった。RIZAPグループはM&Aが「成長と利益の源泉」だったからだ。ここから松本氏と、瀬戸社長やその側近の経営陣とのバトルが火を噴いた。

 10月1日に松本氏は突然、COO職を外れた。代表取締役のまま構造改革担当の専任となった。

<最終的に瀬戸に示された選択肢は三つだった。
これまで通りM&Aを続ける道が一つ。その場合は松本との決別もありうる。二つ目はM&Aの規模の縮小。ただ、この戦略は中途半端で、再建を目指す会社の姿勢は伝わりづらい。三つ目は、「月一件のM&A」というそれまでの方針を百八十度転換する「新規M&Aの凍結」だった。
瀬戸は結局、三つ目の選択肢を受け入れた。傘下企業の在庫損を計上し、赤字に転落することも同時に決断。業績下方修正の幅が固まったのは、11月13日夜だった。
迎えた決算発表。「期待を大きく、大きく、裏切る結果となりました」。檀上の瀬戸は今にも泣き出しそうだった。3カ月前に同じ場所で、M&Aを積極的に進めると力強く語ったのとはまるで別人である>(18年12月13日付朝日新聞「松本ショック(下)」)

 RIZAPグループは11月14日、19年3月期の決算見通しを150億円の黒字から一転、70億円の赤字に下方修正した。M&Aを繰り返し、事業の多角化・拡大を進めてきたものの、グループ入りした企業の業績は改善せず、赤字を計上せざるを得なくなったのだ。

「おもちゃ箱のような会社だが、いくつか壊れているおもちゃがある。壊れたものは修繕していかないといけない」

 11月14日の中間決算発表の席上、松本氏は隣に座る瀬戸社長に言い聞かせるように、こう述べた。RIZAPグループに入る前、松本氏は「おもちゃ箱みたいで、おもしろい」と前向きに受け止めていたが、評価は一転した。

●社長に物申す人がいない企業風土

 松本氏は「文藝春秋」(文藝春秋/2月号)で、瀬戸社長の経営についてこう語っている。

<私の経営哲学は、「正しいことは正しく」というものです。ですが、経営陣のなかで、会社にとって何をするのが「正しい」のか、これまで全く議論されていなかった。少なくとも、ライザップの上層部においては、そのような議論の文化が存在していないようでした。
問題は、私が来る前から「M&Aを控えたほうがいい」と考えていた取締役が一定数いたにもかかわらず、彼らが意見を発してこなかったことです。瀬戸さんに対する勝手な忖度だったのかもしれません>

 瀬戸社長は松本氏の提言を受け入れ、構造改革に乗り出した。松本氏は今年1月1日、RIZAPグループの代表権を返上すると同時に、9人いる社内取締役を瀬戸社長と松本氏の2人にまでドラスチックに減らし、取締役会の過半数を社外取締役とするという新体制が組まれた。

 M&Aを重ねて85社に膨れたグループ企業の整理に乗り出した。1月25日、シャンプーなど日用品の製造・販売子会社、ジャパンゲートウェイ(18年9月中間期は20.3億円の営業赤字)の売却を発表。3月29日、タツミプランニング(同5億円の営業赤字)の戸建住宅・リフォーム部門の身売りを決めた。それでも、赤字子会社はまだまだ多数ある。

 M&Aによる規模拡大路線を凍結。本業のフィットネスジムに回帰して、しっかり利益を上げる。社外取締役を中心にコーポレートガバナンス(企業統治)体制も整いつつある、ということに、建て前上はなっている。

 そのため、「構造改革に一定の方向性がついた」として、松本氏は去る。瀬戸社長が悲願としてきた東証1部上場のメドは立たないまま、経営の指南役を下りたわけだ。

「文藝春秋」で松本氏は<私はビジネスでは「勝ち馬にしか乗らない」のがモットーです>と述べている。

 松本氏が去ったRIZAPグループでは、瀬戸氏の取り巻きが息を吹き返し、再びボロ会社買いに突き進むことになるのではないか、との懸念を指摘する声が多い。不採算会社の整理の進展を理由に「20年3月期に黒字転換する」と発表するとみられる。ボロ会社を買い漁って「負ののれん代」を積み上げるほうが、1円刻みで細かい利益を稼ぐより簡単で楽だからである。だが、前途は多難である。

●「赤字予想は100億円超え」

「週刊現代」(講談社/5月25日号)が『ライザップ「経営危機・倒産」の大ピンチ』と報じた。

<5月15日、RIZAP(ライザップ)グループは、決算発表で前代未聞の大赤字を発表する。同社関係者が語る。「経理部門の数字を見ると、赤字幅は優に100億円を超過する見込み。幹部によると、最終調整に入り、それ次第でさらに赤字は拡大します」>

 昨年11月に19年3月期の決算見通しを150億円の黒字から70億円の赤字に大幅に下方修正しているのだから、100億円の赤字になったとしても、それは前代未聞のことではないが、3ケタの赤字になったとすれば事態は深刻だ。傷口は大きい。

「週刊現代」の記事に市場が注目したのは<問題の根は深い。ライザップを本格的な経営危機に追い込みかねない事態が進行している。ライザップの経営手法について、証券取引等監視委員会が重大関心を持ち始めているのだ>という部分だ。

<連続増収増益と公募増資。さらに増資後の減損など、この2年で大きな動きがあった同社は株価もまた乱高下した>とする金融機関の幹部の証言を掲載している。<証券取引等監視委はライザップの関連会社への監視を強化している>という。

 同誌のインタビューで瀬戸社長は「自信を失ったわけではありません。今期以降は必ず黒字化させます」と述べている。

 ライザップの株価は5月8日、270円(10円安)となった。年初来高値は449円(3月1日)。同安値は185円(1月4日)である。ちなみに18年の高値は1月の2198円、17年は11月の3090円。株価の崩落ぶりは鮮やかだ。
(文=編集部)