動画共有サービスのYouTubeでは現在、ある傾向を持つ動画の投稿が増加していることをご存じだろうか。それは、世間的に話題になった事件の犯人や、スキャンダルや訃報が流れた著名人の関係者を名乗る人物が登場する動画や、事件の犯人の擁護や亡くなられた著名人を非難する動画だ。

 これらの動画は、事件や訃報に便乗した内容であることから“不謹慎系”、あるいは世間の潮流とは反対の意見を主張することから“逆張り系”と呼ばれており、そういった動画を主に投稿する動画投稿者は“不謹慎系YouTuber(ユーチューバー)”と呼称されているのである。

 YouTube運営サイドはそういった動画への対策を怠っているように見えるが、対応の遅れや不謹慎系ユーチューバー増加の要因について、ITジャーナリスト・高橋暁子氏に聞いた。

首里城炎上から増加の一途を辿る

 炎上狙いの動画を投稿するユーチューバー自体は2013〜15年頃から登場しており、過激な動画内容やユーチューバー自身のキャラクターによって話題を集め、ファンを獲得していった。では、今問題となっている不謹慎系が増加した背景には何があったのだろうか。

「YouTubeが現在ほど多くの方が利用されるようになる以前から、ニコニコ動画などでちらほらと存在していました。そういった不謹慎系ないし逆張り系とされる動画を、もともと投稿していたユーチューバーもいますが、最近では普通の動画を投稿していた方が不謹慎系に転向してしまうケースが増加しているのです。そのきっかけとなったのが、2019年10月の首里城の火災でしょう。

 あの火災の際に、首里城を燃やした犯人を自称するユーチューバーの動画が投稿され、メディアで大きく取り上げられました。結果的に、ああいったパターンの動画の存在や、注目を集めることができるという事実が広く周知されてしまい、不謹慎系の増加を招くこととなったのです」(高橋氏)

 高橋氏によると、増加を続けている理由は、その“お手軽さ”にあるという。

「ユーチューバーは現在レッドオーシャンと化していて、HIKAKINさんやはじめしゃちょーさんを筆頭に有名で実力のある方々が多くいらっしゃいます。ですから一般の方が今から参入し、そういった人気ユーチューバーと勝負できるようなクオリティの動画を投稿することは、非常に難しいといわざるを得ません。

 しかし、不謹慎系とされる動画はすでに世間で話題になっているトピックに便乗するため、衆目を集めやすいですし、凝った内容の動画にする必要もないので、倫理観などの問題を無視すれば誰でも簡単につくれてしまうのです。さらに、YouTube自体がグーグルのサービスなので、検索すると検索上位に表示されやすくなるといった環境の問題も、再生回数の増加に拍車をかけています。

 そのため、自分なりに努力をしても再生回数を伸ばすことができなかったユーチューバーが、たとえ非難されることになったとしても、注目を集めることで承認欲求を満たし収入を得ることができるので、不謹慎系になってしまうケースが後を絶たないのです」(高橋氏)

今のYouTubeでは“不謹慎系”を止めることはできない?

 インスタントに承認欲求を満たし、実利を得ることができるためにやめることができない不謹慎系動画は、さながらユーチューバーにとっての麻薬のようなものかもしれない。YouTubeは何らかの対策を講じているのだろうか。

「著名人の関係者を騙るといった行為や、他者を非難するような悪意のある表現は、YouTubeのなりすましに関するポリシーや、炎上目的や他者を侮辱するコンテンツに広告を掲載してはいけないというガイドラインに抵触しています。ですから規約に違反しているということもあり、広告の無効化や違反警告といった対応はしていると思われます。ただ、不謹慎系が増加傾向にあるために対応が追いつかずに、なかなかチャンネル停止といった対処までは行われていません。

 対応の遅れには、新型コロナウイルス感染症の影響もあります。在宅勤務への切り替えなどの理由でコンテンツのチェックをAIなどに任せた結果、チェック漏れが発生してしまい、それを人の目ですべて確認することもできていないため、不謹慎系が放置されてしまっている現状にあるのです」(高橋氏)

 では、今後も増加し続けていくのだろうか。

「話題になった事柄に便乗して再生回数を稼ぐという手法は、トレンドブログのようにすでに定番化してしまったような印象があります。逆張り系とされるような動画は多少なりともファンを獲得し、物見遊山でそういった動画を視聴して再生回数に貢献するような方も存在するため、完全になくなるということはないでしょう。

 しかし社会での批判が今以上に強まっていった場合は、YouTubeがさらに規則を厳しくすることで対策に乗り出すことも考えられます。ただ、規約改定は、かつて多くのユーチューバーが米国の児童オンラインプライバシー保護法に違反して制裁金を払うことになり、子ども向けコンテンツのターゲティング広告が廃止されたときのように大きな問題になったり、批判の声が大きくなってからのことが多いため、あまり現実的ではないかもしれません。

 不謹慎系がメディアで取り上げられなくなり、そういった方や動画に対して反論するような動画や記事が出なくなるなど、話題にならなくなるといった状況に変化すれば減少していくかもしれません。しかし、そういったことが起こらない限りは、不謹慎系はしばらくの間、新たに生まれ続けていくでしょう」(高橋氏)

 簡単に動画が制作できて注目を集めやすく、さらに収入も獲得できるとあっては、その増加がとどまるところを知らないのも無理もない話だろう。結局のところ、不謹慎系や逆張り系とされる動画を減らすには、個々人がそういった動画を視聴せず、話題にも出さない以外の方法はないのかもしれない。

(文=佐久間翔大/A4studio)