サイバーエージェントが7月に公開した2021年4〜6月の四半期決算が、世間に与えた衝撃は記憶に新しい。傘下のCygamesが2月にリリースしたスマートフォン向け育成シミュレーションゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』の大躍進により、ゲーム事業の営業利益が前期比で483.5%増加したのだ。大人気コンテンツの誕生が、利益をもたらすのは同社だけではない。ゲーム関連のネットメディアは連日同ゲームの動向を追い、公式グッズのみならずウマ娘を意識した非公式商品が巷に溢れはじめている。

 そんななか、アニメやライトノベル、プラモデル、サバイバルゲーム関連書籍の発行で知られるホビージャパンが今月4日に発売したムック本『優駿図鑑 〜スペシャルウィーク、サイレンススズカ、トウカイテイオー 夢を追った伝説の名馬たち〜』が物議を醸している。図鑑の内容に対し、競馬ファンから批判が殺到し、同編集部は6日、「心よりお詫び申し上げます」と謝罪する事態に発展したのだ。

 帯に「伝説の“あのウマ”たちが全員集合!」と銘打った同図鑑では、スペシャルウィーク、トウカイテイオー、ゴールドシップなど優秀な成績を収めた競走馬を写真や図解で解説している。一方、中央競馬三冠馬であるディープインパクト、オルフェーヴル、コントレイルが掲載されておらず、同編集部がなにを基準に「伝説のウマ」を選んだのかについて、疑問の声が上がったようだ。Twitter上では、図鑑にピックアップされているのがウマ娘の主要キャラクターのモチーフになった競走馬であることを指摘する声も相次いだ。

トウカイテイオーが2016年菊花賞を制した?

 また図鑑の記述に関しても議論が巻き起こった。Twitter上ではトウカイテイオー(1994年引退)の主な戦歴に2016年菊花賞が記されている点や、2001年の香港ヴァーズを制したステイゴールドがG1未勝利扱いになっている点などに関し、事実誤認を指摘する声が上がった。

 読者からの指摘を受け、同編集部は6日、編集長名義で以下のように公式Twitterアカウントで謝罪した。

「『優駿図鑑』をご購入いただき、誠にありがとうございます。

 ご連絡いただいております『優駿図鑑』内の誤植につきまして、ご指摘頂いた点を含め内容を精査し今後正誤表を出させていただきます。ご迷惑をおかけ致しておりますこと、心よりお詫び申し上げます」

『優駿図鑑』をご購入いただき、誠にありがとうございます。

ご連絡いただいております『優駿図鑑』内の誤植につきまして、ご指摘頂いた点を含め内容を精査し今後正誤表を出させていただきます。

ご迷惑をおかけ致しておりますこと、心よりお詫び申し上げます。

2021年10月6日 優駿図鑑編集長

— 優駿図鑑編集部 (@yushunzukan_hj) October 6, 2021


ホビージャパン「ウマ娘を意識した図鑑かどうかは回答控える」

 競馬メディア編集者は次のように今回の炎上騒動を見る。

「仮にネット上でのファンからの指摘が事実であれば、図鑑と名乗るには、なかなかの粗さです。

 例えばトウカイテイオーの戦歴に“2016年菊花賞”とある部分です。トウカイテイオーの父シンボリルドルフは当時、史上唯一無敗で三冠(皐月賞・日本ダービー・菊花賞)を制した馬でした。その息子であるトウカイテイオーも無敗で皐月賞・日本ダービーを勝ちますが、その後に骨折が判明。菊花賞に出走することができませんでした。アニメ・ウマ娘でも、その当時のトウカイテイオーの葛藤がしっかりと描かれているので、図鑑がそんな菊花賞を『勝った』としたことが、ファンの心情を逆撫でしたのだと思います。また、2016年菊花賞を勝ったというのは、1994年に引退していることからも完全に誤植です。(2016年の菊花賞勝利馬はサトノダイヤモンド)

 また同様に指摘されていたステイゴールドは、ウマ娘には出ていませんが、なかなか勝てない馬として競馬ファンから戦績以上の人気を誇った馬でした。G1などの大きなレースで2着ばかり(かつ1着がない)『シルバーコレクター』の代表的な存在だと思います。

 そんなステイゴールドがデビューから5年、キャリア50戦目の最後のレースでたどり着いたのが、香港の香港ヴァーズ(G1)優勝。悲願のG1制覇を海外で達成し、JRAから同年の特別賞を受賞されています。『優駿図鑑』の『ステイゴールドG1未勝利』は、そんな1勝を否定しているので、ファンから多くの指摘が集まったのでしょう。

 ただ、Twitterに挙げられている図鑑の画像を見る限り、ステイゴールドのG1成績が19戦0勝となっているので、海外G1の香港ヴァーズはカウントされていないのかなとも思います。(カウントされていれば20戦1勝になる)

 一方、ステイゴールドの説明欄には『ゴールド(1着)を獲る夢は海外(香港ヴァーズ)で叶えた』とあるんです。この説明欄にあるヴィルシーナは、確かにG1を4戦連続で2着しましたが、その後にヴィクトリアマイル(G1)を連覇。G1・2勝馬である本馬をシルバーコレクターというのは無理があるというか、ごく少数派だと思います。

 そしてそれ以上に図鑑を名乗り、帯に『伝説の”あのウマ”たちが全員集合!』と謳っておきながら、まったく全員集合できてない点は疑問ですね。

 ウマ娘は数々の名馬を美少女キャラクター化させて大ヒットしていますが、その一方で実名を使用しているため、新キャラ登場させるには馬主の許可が必要なんです。そのため、三冠馬のディープインパクトやオルフェーヴルといった競馬を語る上で欠かせない名馬が登場していません。

 競馬史を彩る名馬の図鑑であれば本来、ディープインパクトやオルフェーヴルは掲載されて然るべきですが『優駿図鑑』は何故か、ウマ娘の傾向に沿っており、図鑑で紹介されている馬は、ほぼウマ娘に登場している徹底ぶりです。従って『優駿図鑑』は図鑑ではなく、ウマ娘ファンに向けたファンブックに近いものがあるのですが、にもかかわらず、上記のトウカイテイオーのような誤植があったため炎上しているのだと思います」

 そもそもこの図鑑はウマ娘を意識して製作されたものだったのか。ホビージャパン広報宣伝課に、図鑑の企画趣旨がウマ娘を念頭に置いたものだったのかを問い合わせたが、「回答は差し控えさせていただきます」と明言を避けた。

コンテンツの核である「事実と歴史」を軽視してはいけない

 大手ゲームメーカー関係者は一連の騒動を次のように解説する。

「ホビージャパンさんの図鑑は、CygamesさんやJRAさんの許可を得て、あくまでウマ娘のファンブックとして発行していれば、これほどの問題にならなかったのではないかと思います。

 ウマ娘は確かに新しい市場を切り拓いたのだと思います。どこの企業さんもそれにあやかりたいと思うのは当然でしょう。大手ECサイトやオークションサイトを見ていると、明らかにウマ娘を意識した競走馬グッズが大量に出品されています。自作のグッズをファン同士でやり取りするだけなからまだしも、さすがにそれは権利的にアウトだろうという例も見かけますね。

 ゲームのキャラクターやストーリーが完全オリジナルなら、メーカーの許可なく関連商品は作れません。しかし、ウマ娘は実在の競走馬をモチーフにしているという点で、競走馬にフォーカスする限り、誰でもやり方によっては市場に参入できます。

 ただ、こういう実話をもとにしているコンテンツは、その核となっている『事実や歴史』を軽視して安易に改ざん、編集したり、脚色したりすると大変なことになるものなのです。

 例えば日本の戦国時代や中国の三国志をモチーフにした『戦国無双』『三国無双』シリーズなどを手がけるコーエー・テクモゲームスの知人は、歴史学者顔負けのフィールドワークと文献調査を行っています。

 そのうえで、研究者や歴史ファンにもギリギリ許容されるラインを見定め、かつ一般のゲームユーザーにもウケる脚色をしています。それほど気を使っていても、たびたび事実誤認を指摘されたり、史実の解釈をめぐって厳しい批判を受けたりしているようです。

 ウマ娘も、馬主さんの意向を聞き、実際の競走馬の戦歴を精査した上で、創作物として表に出すことができるギリギリのラインを攻めているんじゃないかなと思います。

 そもそもギリギリのラインを攻めているコンテンツに便乗しようとして、さらに際どいラインを攻めれば、今回のような炎上騒動に発展するのは当然と言えば当然だと思います」

(文・構成=編集部)