4月に中国・上海で開催された「上海モーターショー」で、トヨタ自動車の「レクサス」は同ブランド初となるミニバン「LM」を公開した。プレミアムブランドのレクサスが、なぜミニバンを用意するのか? その背景には、アジア地域におけるトヨタ「アルファード」と「ヴェルファイア」(以下、アルファード/ヴェルファイア)の大人気がある。

 たとえば、東南アジアのタイ。首都バンコクの中心地に行けば、道を走るアルファード/ヴェルファイアの多さに驚く。同車の価格は日本では337万6080円から750万2760円だが、現地価格は関税や贅沢税などが加わり、約1300万円から1900万円(374万7000〜538万2000バーツ)という驚くべき設定だ。タイは物価水準が日本よりも低いことを考えれば、とんでもない高級車である。そんな超高級車のアルファード/ヴェルファイアを東京都心よりも多い頻度で見かけるのだから、目を疑うような光景だ。

 実は、そんな状況はタイに限ったことではない。香港、マカオ、インドネシアなどの地域で、驚くほど頻繁にアルファード/ヴェルファイアを見かけるのだ。そして、それらの場所で見かけるアルファード/ヴェルファイアと日本での使われ方には、大きな違いがある。それは、日本では多くが「オーナー自身が運転するミニバン」として、主にファミリーカーとして購入されるのに対し、アジア地域では「運転は雇われた運転手が行い、オーナーは後席に座って移動するリムジン」という位置づけなのである。

 そういった使われ方は自動車用語で“ショーファードリブン”と呼ばれ、これまではロールスロイスを頂点にセダンが使われるのが一般的だった。しかし、従来の古典的な価値観に縛られないアジアの富裕層は、「セダンよりもミニバンのほうが広くて快適。リラックスできるし乗り降りもしやすい」として、アルファード/ヴェルファイアに注目しているというわけだ。

 実は、プレミアムブランドのメルセデス・ベンツにも「Vクラス」という豪華仕様のミニバンがある。しかし、アルファード/ヴェルファイアに後塵を拝しているのが現状だ。その理由は快適性。

 アルファード/ヴェルファイアが基本部分から乗用車として快適性を追求した車体設計になっているのに対し、Vクラスはあくまで商用バンとしてつくられた車体構造で、その豪華仕様にすぎないからだ。商用バンは重い荷物を積載することを考えているので、乗用車に比べると快適性が劣る。サスペンションの構造の違いなどで、乗り心地が悪いのだ。

 さらにいえば、静粛性や乗降性(貨物車は床が高い)もアルファード/ヴェルファイアが優勢である。そのため、富裕層はメルセデス・ベンツという魅力的なブランドネームではなく、トヨタのアルファード/ヴェルファイアを選ぶというわけだ。

 レクサスが発表したミニバン・LMは、まずアジア地域で販売されるという。レクサス初のミニバンがアジア地域をターゲットとした背景にあるのは、アルファード/ヴェルファイアの大人気。移動用として豪華なミニバンを求める富裕層のニーズが大きいからである。
(文=工藤貴宏/モータージャーナリスト)