(ブルームバーグ): ESG(環境・社会・企業統治)への意識の高まりから、サステナビリティー(持続可能性)に特化した部署や役職を新設する企業が増えている。関連の管理職ポストには、女性や若手を積極的に登用する事例が目立ち、年配男性が担ってきた日本の伝統的な企業経営に変化の風が吹き始めた。

  女性活躍や環境問題などに携わるサステナビリティー関連の役職は新しい種類の仕事なので、「今までのやり方で成功してきたグレーヘアの男性でない人も比較的入りやすい」と、マーサージャパンの組織・人事変革コンサルティングプリンシパル、松見純子氏は話す。年齢や性別、国籍などを問わず多様な人材の管理職への登用が課題になる中、受け皿になりやすいと説明する。

  日本企業で、サステナビリティー関連職のニーズは高まっている。 経団連が昨年夏に実施した調査によると、回答した企業のうち42%が、国連の掲げる「SDGs(持続可能な開発目標)」をビジネス戦略に取り入れた。2年前に実施した調査と比較すると4倍以上に上る。また、同調査では、半数近くの企業がSDGsに関連する企業革新を促進するため、社内体制を構築したと回答した。

   リクルートホールディングスの瀬名波文野氏(38)は女性取締役に抜てきされた一人だ。3年前に執行役員に加わり、同社が5月に発表したサステナビリティー方針の内容策定にも深く携わった。同社方針では、2030年度までにグループ全体における上級管理職・管理職・従業員それぞれにおける女性比率を約50%にすることを目指すと明記した。

  違う世代を生きているからこそ価値観の違いがあると言う瀬名波氏は、「若手で女性で取締役でということが注目されない世の中にしていかなければいけない」と語る。

  年配の男性が企業トップの多くを占める日本で、瀬名波氏のような人材起用例はまだ少ない。世界経済フォーラムが3月に発表した最新の「ジェンダー・ギャップ指数」では、日本は120位にとどまり、男女平等の観点では大きな後れを取っている。ブルームバーグ・データによると、日本企業(東証株価指数構成銘柄)における最高経営責任者(CEO)の平均年齢は62.7歳で、主要7カ国(G7)中では最も高齢だ。

  同じく総合人材サービスを提供するアデコ・ジャパンでは昨年、23歳だった小杉山浩太朗氏をSDGs総合責任者に指名した。同社の21年中期事業計画はSDGsの達成に重点を置いており、小杉山氏はその方向性の策定に重要な役割を担った。

  アデコ・ジャパンの川崎健一郎代表は、小杉山氏が国連に学生代表として出席していた経験などを考慮すれば、新卒の同氏の任命に全くためらいがなかったと振り返る。「過去の経験がないと未来を作れないわけではない。逆に過去の何らかの先入観の方が、新しいことを取り組む上では弊害になる可能性もある」とし、年齢を巡る懸念を一蹴した。

  SDGsを推進できる人材について、アデコ・グループの人材紹介サービスSpring転職エージェントの溝邉圭介部長は、業界の常識や社内文化から離れた視点を取り入れたいという意向もあり、外部人材の採用や若手を起用が増えていると指摘する。

  アデコの川崎社長は小杉山氏が「若かったから任命したのではない」と強調。その上で、役職を割り当てる際には性別や世代の制限を一切かけておらず、本来かけるべきではないとも述べた。また、瀬名波氏もリクルートの人事制度について、個々の属性ではなく情熱を重視していると語った。

  サステナビリティーに関する役職に多様な人材を起用する取り組みに対しては、一部にはSDGsへの配慮を装う「グリーンウォッシュ」だとの批判的な声もある。マーサージャパンの松見氏は、そのような批判を受けないよう、どのように対応していくのかが重要だと言う。事実、サステナビリティーを担当する管理職らは、経営方針の起案や実施の主体となっていると評価する。

  年功序列制度から脱却し、管理職の年齢や性別の多様化を試みる企業は他にもある。エーザイは4月、「30代以下の若手マネジメント層を20%以上に拡大する」と発表した。日立製作所も同月、30年度までに役員層の女性比率と外国人比率を30%にする目標を設定した。

  住友生命保険はベンチャー出資やESGといったプロジェクトに対応するチームを作り、専門性や能力のある若手や女性を積極的に登用する方針だ。同社の広報担当によると、同チームの管理職への30代前半の若手起用も検討している。

  これらの動きの背景には、世界的なサステナブル投資の加速がある。ブルームバーグ・インテリジェンスの分析によると、ESG関連の資産は25年までに53兆ドル(約5875兆円)に達するという。これは世界の運用資産の3分の1を占める規模だ。

  経団連のSDGs本部で統括主幹を務める長澤恵美子氏は、17年のダボス会議が日本企業の取り組みを加速させるきっかけとなったと説明する。同会議のリポートは、SDGsは年間12兆円のビジネス価値と3億8000万件以上の雇用を創出すると示した。サステナビリティに関する政策について同氏は、トップダウンからボトムアップで意思決定していく必要性を指摘した。

  「社会的課題の解決を前提とし、そのビジネスモデルによって業績が最大化されるという資本主義の新しい形を定義しない限り、持続可能な開発は実現しない」。アデコの小杉山氏はそう語った。

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