(ブルームバーグ): 日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の失効期限が迫っていた昨年11月、韓国の文在寅大統領は、率直な物言いで知られる側近の1人を極秘のミッションでワシントンに派遣した。

  派遣されたのは金鉉宗(キム・ヒョンジョン)国家安保室第2次長。日本との対立がエスカレートしたそれまでの数カ月間、GSOMIA破棄の主要な提唱者の1人だったことからすれば、不思議な人選と言える。

  ミッションは成功した。協議に詳しい当局者1人によれば、金氏はホワイトハウスでの3時間にわたる会合で、GSOMIA失効を回避し日本との対話を行うとした文政権の計画への米国の支持を取り付けた。日本もこれを受け入れ、安倍晋三首相はその後、関係改善に向け協議するため文大統領との首脳会談を行った。

  金氏は盧武鉉政権で通商交渉本部長などを務め、対決を辞さない交渉姿勢で知られる。米国および欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)締結に貢献。国連大使やサムスン電子の最高法務責任者なども務めた。2010年の回想録では、日本との貿易協定に向けた交渉を中断したのは日本に韓国経済が乗っ取られる恐れがあると考えたためだと明かしている。

  文大統領による金氏の起用は、韓国が従来のようには米国や日本の要求に応じないとのシグナルだった。しかし韓国政府は最終的に米国とのあつれきが深まるのを避けるため、日本との対立から一歩引き下がることを余儀なくされた。

  峨山政策研究院の崔剛(チェ・ガン)副院長は、「文大統領は金氏の通商交渉担当者としての手腕を評価し、厳しい交渉ができる人物だと考えたのだろう。しかし、この人事は失敗だったかもしれない。金氏は静かに対処できたかもしれない問題で大きな騒動を起こした」と指摘した。

  金氏は今回の記事のためのインタビュー要請を断った。大統領府(青瓦台)の報道官は、大統領補佐官のパフォーマンスについてはコメントしないとし、2019年2月に当時の報道官が同氏について「さまざま危機において類のない忍耐力と卓越した交渉スキルによって国益を守った外交・通商の専門家」だと評価したことを指摘した。

  日本による対韓輸出規制の厳格化に対抗し、韓国は昨年夏にGSOMIAを破棄する方針を発表した。この方針をトランプ政権は米軍へのリスクを高めると批判。在韓米軍の駐留経費について韓国の負担は不十分だとトランプ大統領が再び提起する中で、GSOMIA問題が米韓関係に緊張をもたらした。

  国連軍の元ストラテジストで、現在は地政学的リスクの助言会社ストラットウェイズ・グループのマネジングディレクターを務めるS・ポール・チョイ氏は、金氏を有能な通商交渉者たらしめた人としての質が、国家安全保障の方針決定を複雑にした可能性をこの出来事は示していると指摘。同氏が「効果的な国家安保補佐官に必要とされる『パートナー』および『協力的な』役割もこなせるかどうか疑問だ」と述べた。

©2020 Bloomberg L.P.