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新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除されて3週間がたった。日常生活が徐々に戻る中、梅雨を迎えた日本にとってリスクとなるのがコロナ禍での災害発生だ。多くの住民が集まることで「密」状態となる可能性のある避難所でのまん延を防ぐには、これまでとは違う次元の感染症対策が急務となっている。

  2018年7月の西日本豪雨で浸水など大きな被害を受けた岡山県高梁市は7日、大雨に備えた避難訓練を実施した。

  新型コロナ対策として避難者全員を検温し、体調の悪い人は別の入り口を案内することで、他の人と動線が交わらないようにする「別室分離」の手順を確認した。体調が悪くないグループの避難スペースでも、2メートル四方のテープを貼り、距離を保つことを意識。飛沫(ひまつ)を防ぐため、テント地の布で仕切りも設けた。

  高梁市市民課の石田雄一課長補佐は、大雨などで川が氾濫しやすいシーズンを迎えるに当たって「状況に応じたリスク低減を職員も知っておいて、極力その中で対応していく」ことを目指し、訓練を実施したと説明する。

  危険の迫った状況での対応には不安もある。石田氏は避難所入り口での検温作業などは「土砂降りなら外ではできず、別の入り口に案内すると言っても、具合の悪い人を雨の中歩かせるわけにもいかない」と話す。一度に大勢が詰めかけた場合は「完ぺきにはできない」のも現実だ。

何も対策しなければ、クラスターの可能性も

  何も感染症対策を講じず、従来通りのやり方で避難所を開設すると、「クラスター(感染者集団)が発生したり、それがきっかけになってオーバーシュート(爆発的患者急増)になったりする可能性がある」と指摘するのは、防災関連の学会でつくる防災学術連携体の米田雅子代表幹事だ。

  同会では5月、新型コロナウイルスの感染が広がる中で自然災害に見舞われる「複合災害」の危険性が高まっているとして、事前の備えを呼び掛ける声明を発表。避難所の数を増やし、学校では体育館だけでなく教室も使用するほか、感染者や感染の疑いのある人がいる場合には、建物を分けるなど隔離のための対策も必要と地方自治体関係者に呼び掛けた。

  全国の自治体では、新型コロナウイルスに対応した避難所運営のガイドラインの改定など対応が進められている。政府は2020年度第2次補正予算に1.56億円を計上。災害時の感染症予防対策として、避難所で必要な衛生用品などの物資の備蓄や、感染症に配慮した避難所運営についてのオンライン研修プログラム費用を盛り込んでいる。

  武田良太防災担当相は15日の参院決算委員会で、「密」を避けるにはスペースの確保が重要であり、「可能な限り多くの避難所を用意しておかなくてはならない」と答弁。ホテルや旅館の活用を進める考えを示した。各都道府県による物資の備蓄や避難所の確保については、新たに担当者を決めて国が状況を把握するなど、「万全の体制を今整えているところ」と説明する。

体育館から分散避難へ

  NPO法人・CeMI環境・防災研究所が4月、全国の約5000人を対象に実施したインターネット調査では、コロナ感染症が流行する中で、地震や水害時の避難行動に影響があるかとの問いに、73%が「影響する」と回答した。

  影響するとした人のうち、個別空間が確保できる「車避難」を選ぶ人が41.7%、「様子を見て避難先を変える」が39%、「避難所に行かない」が21.8%だった。

  調査を監修した東京大学大学院の松尾一郎客員教授は、避難者同士の十分な距離を確保するには、従来の2−3倍のスペースが必要で、避難所の数も同様に2ー3倍確保することが求められるが、急な対応は難しいと指摘。これからは「分散避難」の形をとり、安全が確保できれば在宅避難、親戚や知人宅などを頼る縁故避難、車中泊など「さまざまな避難形態をとることが重要になる」との認識を示した。

 

  これまでの災害時にも、インフルエンザやノロウイルスなど感染症対策は課題だったが、多くの自治体で狭い体育館に大勢の人が入る「密な環境」の避難が続いてきた。松尾氏は、新型コロナをきっかけに始まった自治体の取り組みにより、「避難所環境をよくすることになると思う」と期待感を示す。

  住民に対しては、避難先の再検討に加え、避難所に行く際にもマスクや体温計を持参するなど、「これまで以上に用意と備えが必要」と自主的な対策を促した。

©2020 Bloomberg L.P.