(ブルームバーグ): 2012年12月に第二次安倍政権が発足して7年8カ月。日本経済の「デフレからの脱却」を掲げ、金融政策と財政政策、規制緩和を3本柱としたアベノミクスを推進し、日本経済の成長を後押ししてきた。企業業績は過去最高を更新し、雇用所得環境も改善、金融市場の安定にも寄与した。ただ米中貿易摩擦や中国経済の失速、相次ぐ自然災害に加え、新型コロナウイルスの影響を受けて経済成長は失速した。

  アベノミクスをけん引したのは、第1の矢である大胆な金融政策だ。政府と日本銀行は2013年1月に2%の物価安定目標を早期に達成するとした共同声明を発出。黒田東彦総裁の就任直後の同年4月には、物価目標を2年程度で実現するという強力なコミットメントとともに、大量の国債買い入れを柱とした「量的・質的金融緩和政策」を打ち出した。金融市場で「黒田バズーカ」とも呼ばれた大規模な金融緩和策によって過度な円高は是正され、株価も安倍政権発足時の約2倍に上昇した。

  日銀は16年1月に日本で初めてのマイナス金利政策を導入、同年9月には長期金利を誘導目標とする世界的にも異例のイールドカーブ・コントロール政策を採用するなど物価目標の実現を目指して金融緩和の強化を続けた。しかし、海外経済の減速や原油価格の急落、2回の消費税率の引き上げによる個人消費の低迷などもあり、大規模緩和の導入から7年以上が経過した現在も2%の物価目標は達成されていない。足元では新型コロナウイルスの影響で消費者物価が一時マイナスに突入するなど再デフレも警戒されている。出口の見えない金融緩和政策が続く中、超低金利の長期化に伴う金融システムへの影響など副作用も目立ち始めている。

  アベノミクスの一つの成果とされるのは、企業業績だ。18年4−6月期に過去最高を更新し、企業は投資を増やし、国内景気は緩やかに回復した。政府は19年1月に戦後最長の景気回復を更新したとの見方を示していたが、海外景気減速により、18年10月には海外景気後退の影響を受けて景気は山をつけており、新型コロナが追い打ちをかけた。

  アベノミクスのもう一つの成果は、雇用所得環境の改善だ。景気回復による人手不足で、有効求人倍率はバブル時の水準に上昇、失業率は今年6月の時点でも2%台の低水準で推移。政府が企業に賃上げを呼び掛ける「官製春闘」が行われ、基本給のベースアップや最低賃金の引き上げが続いたほか、女性や高齢者の働き手が増え、雇用者報酬は順調に伸びてきていたが、それも新型コロナで一変した。

  アベノミクスの「第2の矢」である財政政策は、日本経済の押し上げに寄与した一方、財政状況を悪化させた。税収と歳出の差であるワニの口は、新型コロナウイルスに関する経済対策で、あごが外れるほど急激に開いた。少子高齢化に伴う社会保障財源を確保するために、安倍政権は任期中に2回の消費税率の引き上げを行ったが、焼け石に水となった。

  アベノミクスの「第3の矢」である成長戦略は、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)や環太平洋連携協定(TPP)など通商交渉を進展させたほか、法人税率の段階的な引き下げなど、企業の6重苦の解消に貢献。規制緩和により、外国人労働力の受け入れで人手不足への対応、訪日外国人旅行客によるインバウンド需要を拡大した。ただ米トランプ政権が保護主義に傾き、貿易摩擦が海外との貿易取引に影を落としたほか、新型コロナで外国人労働力や旅行者の受け入れも停止した。

  2015年に示されたアベノミクス新3本の矢では、金融・財政・成長戦略によって20年に名目国内総生産(GDP)600兆円を目指すほか、少子化高齢化問題に取り組むとの目標を掲げた。合計特殊出生率は、低下し続けているほか、新型コロナによって20年度の名目GDPは4.1%減の529.8兆円が見込まれており、安倍政権の目標達成は一層遠のいた。

  みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは、アベノミクスはこれまで「円高是正と財政で総需要を拡大し、主婦や高齢者、外国人材などの労働参加率を高め、需要も供給も両建てで引き上げてきた」と評価。新型コロナの影響で、「アベノミクスのレガシーが吹き飛ばされてしまったのは不運だが、この路線自体は間違っていない。誤った判定を下さないように情報発信しなければいけない」と述べた。

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