(ブルームバーグ): 米連邦準備制度は先月、インフレ率押し上げに向けた新たな戦略を公表した。これに伴い、物価が上昇してもすぐにその抑制に動くことはないと一般の人々に納得してもらうため、新しい戦術の策定が必要となる。

  連邦準備制度は過去40年間にわたりインフレ警戒を維持し、少しでも脅威を感知すれば物価高を食い止めてきた。こうした監視のおかげでインフレとの闘いに勝利を収めることができたが、物価圧力はその後、過度に弱まって金利を下押しし、リセッション(景気後退)に対処するだけの十分な利下げ余地を確保するのが困難となっている。

  このような問題を是正するため、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は当局として2%の目標を上回るインフレ率を容認するとともに、失業率が低下しても利上げに踏み切るわけではないと説明した。

  しかし、連邦公開市場委員会(FOMC)の参加者が今後何年かインフレ高進リスクについて語るのを意識的に避けるようにしない限り、新たなアプローチは「何らの実際的な影響をもたらさない」とカーライル・グループのグローバル調査責任者、ジェーソン・トーマス氏は指摘。「インフレ率が持続的に目標を上回って推移するようになるまで、連邦準備制度は物価動向に関して完全に静観姿勢を示す必要がある」と語った。

  連邦準備制度が米東部時間16日午後2時(日本時間17日午前3時)にFOMC声明を発表後、パウエル議長は2時半からの記者会見で、当局がどのようにインフレ率を押し上げていくのか、質問を受けることになりそうだ。

  長年にわたる慣行をやめるのは制度文化の大幅な変革であり、定着には時間がかかりそうだ。故ボルカー議長が1980年代にインフレを退治して以降、歴代のFRB議長は物価圧力の高まりに総じて利上げで対応し、公に警告を発してきた。企業や家計もそれに呼応する形で、当局の実際のインフレ目標は2%をやや下回る水準であると受け止めるようになったことが研究論文で示された。

  連邦準備制度はこれまでに、一定期間の平均で2%のインフレ率を達成するとコミットし、必要であれば2%を上回るようにする用意を表明した。FOMC参加者17人全員(2人欠員)が同意して8月27日に発表された歴史的な方針転換ではあるが、目標達成のための手段が限られる中にあって、それをどう用いていくかを含め、これから取り組むべき作業は多い。

  「金融政策の運営姿勢がどのようなもので、どの程度までのインフレが容認されて、実際のインフレ率はどうなるかについて人々の考え方を変えるのは長いプロセスだ」とピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長は話す。「戦略の発表だけで信頼を得ることができて、行動なしに物価や賃金を完璧に動かすことができるとでも考えない限り、この戦略にはこれまでのところインフレを加速させるようなものは一切ない」と語った。

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