(ブルームバーグ): 中国共産党は台湾への侵攻も辞さない姿勢を70年余り続けている。アナリストや当局者、投資家の間では、今後数年以内に中国が台湾に攻め入り、米国との戦争につながる可能性があるとの不安が広がりつつある。

  「大きな危機が近づいていると懸念を強めている」と米プロジェクト2049研究所のシニアディレクター、イアン・イーストン氏は言う。「全面的な侵略の試みとその後の超大国の戦争という結果を想定し得る。今後5ー10年は危険な時期になるだろう。こうした一触即発の状況は基本的に不安定だ」と指摘。同氏には中国による侵略の脅威と台湾の防衛力、米国のアジア戦略についての著書がある。

  ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計によれば、中国の軍事費は台湾の約25倍。核兵器は言うまでもなく、ミサイルや戦闘機、戦艦、兵士の数など通常戦力でも中国が明らかに有利だ。ただ台湾は何十年にもわたり中国の侵攻に備えており、中国が行動に移せば極めて大きなリスクに向き合う公算が大きいというのが現実だ。

  米国防総省や情報機関に助言してきたマイケル・ベックリー氏は2017年の論文で、「中国人民解放軍は台湾軍への対応で手一杯になる」と分析。米国がその戦闘に加われば、中国の台湾侵攻は失敗すると予想した。

  米軍関与の可能性は、侵略シナリオを検証する上で重要なワイルドカードだ。ヘッジファンドを運用するブリッジウォーター・アソシエーツの創業者で資産家のレイ・ダリオ氏は先月25日、英国がスエズ運河の支配権を取り戻せなかった1956年のスエズ動乱に触れ、米国が介入に失敗すれば英国と同じように威信を損ねる可能性があるとオンライン上で論じた。スエズ危機で大英帝国の解体が加速し、ポンド下落が準備通貨としてのドルに有利に働くことになったと説明した。

  中国人民解放軍空軍は今年9月、米軍にとって台湾支援の重要拠点となるグアムの空軍基地に似せた滑走路を爆撃機「轟炸六型(Hー6)」で攻撃するシミュレーション動画を公開。共産党系の新聞、環球時報は「東風26号(DF−26)」のような中距離弾道ミサイルが米軍基地を無力化することは可能だと報じた。

近づくなと米空母に警告−中国のミサイル発射、米軍基地もけん制か

  シドニー大学は昨年の研究報告で、米国にはもはや中国に対する軍事的優位性はなく、域内の米軍基地や滑走路、港湾は「軍事衝突開始後数時間の正確な攻撃で使い物にならなくなる恐れがある」と警告した。

  オバマ政権時代の国務省高官、ダニエル・ラッセル氏は9月8日に台北で、「北京の戦略は台湾による抵抗の弱体化を基本としているだけでなく、米国が中台問題にどのようなアプローチをしてくるかということにも賭けている」と指摘。「欧米の体制、特に米国が衰退しているという確信が中国が主張を強めている最も大きな要因だ」と話した。

  米国は中国の習近平国家主席の企てを阻止するため介入すると明言し、同盟国を安心させるべきだと主張するのは米外交問題評議会(CFR)のリチャード・ハース会長だ。同会長はフォーリン・アフェアーズ誌への9月2日の寄稿を共同執筆し、「中国共産党による国内政治体制の支配を維持するという願望がとりわけ習氏を突き動かしている」との見解を示した。

  中国共産党にとって台湾侵攻は途方もないリスクだが、党総書記として習氏は領土・領有権の問題を巡り強く行動する意思を示してきた。国際社会の非難を無視し、香港で民主派を締め付け、南シナ海に軍事拠点を設け、新疆ウイグル自治区では100万人を超えるイスラム教徒のウイグル族を収容する再教育施設を造った。

中国共産党総書記、ウイグル族政策の堅持表明−国際的な批判の中で

  プロジェクト2049研究所のイーストン氏は「台湾で戦えば中国政府にとって代償は極めて高くつくだろう。少なくとも数十万人の死傷者が出る。だが習氏が払っていいと考えている代価かもしれない。共産党が極端な決定を下す余地を過小評価すれば、われわれが危険にさらされる」と警鐘を鳴らしている。

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