(ブルームバーグ):

海外の年金基金に化石燃料からの投資撤退(ダイベストメント)の動きが広がる中、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の環境・社会・ガバナンス(ESG)投資にアピール不足との指摘が出ている。利益は堅調なものの、ESG投資の先駆者としてもっと具体的な投資方針の説明を求める声もある。

  約178兆円に上るGPIFの運用資産(2020年12月)のうち、ESG指数に連動するのは外国株対象も含め約7兆円。投資原則に「財務的な要素に加えて、非財務的要素であるESGを考慮した投資を推進する」と定めているが、投資規模やペースの基準は示されていない。年金を受け取る国民の利益を優先し投資は委託会社に一任する原則という法律上の観点から、ダイベストメントは採用していない。

  海外ではダイベストメントの方針を明確に打ち出す年金基金も出ており、フィンランドの年金基金は、ポートフォリオの脱炭素化の一環として2030年までに石炭火力発電所を閉鎖していない企業を売却する予定だ。ダイベストメントを掲げる金融機関は資産運用大手ブラックロックを含め1300を超えた。

  大和総研の太田珠美主任研究員は「ESGが一般化し、需給の面でエネルギー関連とか石炭、化石燃料関連は良くないという認識がある」と説明。「お金の流れにESGが影響しないという人はもういない」とした上で、GPIFのESG投資に関する対外的なアピールの必要性を指摘した。

  ESGへの取り組みは、20年3月に退任した前最高投資責任者(CIO)の水野弘道氏が主導した。実際のESG指数運用は17年度から始まり、運用会社への評価や選定にもESGを織り込むことで、国内の機関投資家への普及に寄与してきた。ただ現CIOの植田栄治氏は就任以降、一度も記者会見を開いておらず、現在の方針は国民に伝わりにくくなっている。

  ソニーフィナンシャルホールディングスの菅野雅明チーフエコノミストは「早い時期にESGを打ち出したのは評価したい」と述べる一方、「収益性との関連をどのように説明していくのかが十分ではない」と語った。

  GPIFの山口広秀経営委員長は5日の就任会見では、「ESG投資は長期的に取り組んでいくということを通じて成果をあげていく」と話した。経営委員会は、執行部からESG投資の状況について「日々報告を受けつつ適切なモニタリングに努めていく」としたものの、具体的方針は示さなかった。

制約

  GPIFは法律上「長期的な観点からの安全かつ効率的な運用」を要請されており、厚生労働省で実施する年金の財政検証を踏まえ、厚労相が5年間の中期目標で長期的な運用目標(賃金上昇率プラス1.7%)を定めている。資産構成割合(基本ポートフォリオ)は厚労相の認可が必要など、運用には制約がある。

  GPIF改革の有識者会議で座長を務めた米コロンビア大学の伊藤隆敏教授は、GPIFは「リターンが低くてもいいからESGに投資しろというマンデート(権限)を明示的にはもらっていない」と指摘。ESGのうち、収益に直結することが証明されていない環境や社会分野への投資は「フィデューシャリーデューティー(受託者責任)との関係が難しい」と述べた。

  GPIFが投資した5つのESG指数は、2017−19年度の3年間、19年度単年度いずれの運用成績も、市場平均を上回った。GPIFの塩村賢史投資戦略部次長によると、20年度の新型コロナウイルス感染拡大初期に株式市場が下落した際もESG指数は市場平均に比べて下げが小さかったという。

  塩村投資戦略部次長はインタビューで「逃げていると思われるかもしれないが、ESG指数はパッシブ運用でマーケット並み、あるいは若干のアウトパフォームを期待できるものを長期に続けていくことの方が効果は大きい」との見方を示し、「ESGに10兆円、20兆円と額を決めて投資することが、GPIFの目的と目標にふさわしいわけではない」と語った。

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