(ブルームバーグ):

世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、中国国債の運用を巡り政治的配慮とリターン向上との間で難しい選択を迫られる。

  FTSEラッセルは10月から、世界的な債券ベンチマークの世界国債インデックス(WGBI)に中国国債を段階的に組み入れる予定。外国債券のパッシブ運用の中でWGBIをベンチマークの一つに採用しているGPIFは、中国国債に投資するのか、それともリターンを低下させるリスクを負うのか判断しなければならない。

  日中関係の緊張を踏まえると、国内の年金資金を中国国債に投資することはGPIFにとって政治的に理解を得がたい選択となる公算が大きい。日本が民主主義を掲げる他の主要国と共に中国制裁に踏み切れば日中関係はさらに冷え込む恐れがある。

  ただGPIFにすれば、高利回りの中国国債への投資を控えながら、ベンチマーク並みのリターンを上げるのは容易なことではないだろう。GPIFの外債アクティブ運用では人民元建て債券が外されている。30日の中国10年債利回りは3.2%近辺で推移しており、WGBI利回りの0.5%をはるかに上回る。

  GPIF改革の有識者会議で座長を務めた米コロンビア大学の伊藤隆敏教授は、「中国国債のリスクをきちんと評価できているのかが重要」と指摘。「中国を外す場合でも、ガバナンスあるいは、債券がデフォルトした場合の価値、支払い順序など、他国と同じようにきちんと詰めることが重要だ」と語った。

日本の投資家は難色

  GPIFの決定は、中国国債への投資機会を検討している国内の公的および民間の年金基金にとっても極めて重大な意味を持つ。

  ロイター通信は1月、FTSEラッセルが中国国債をWGBIに組み入れることに対し、GPIFなど日本の一部投資家が難色を示していると報じた。GPIFの宮園雅敬理事長は当時、日本の投資家の意見を収集した上で最終的な決定を行うと認識していると述べていた。

  GPIF広報の本多奈織氏は、WGBIへの中国国債組み入れについて、「実際の組み入れまで時間があることもあり、法人内で論点を整理して対応を検討してまいりたい」と語った。

  FTSEラッセルは昨年9月にWGBIに中国国債を採用すると発表。30日の発表資料では、36カ月の期間で中国国債を段階的に組み入れ、ウエートは約5.25%になるとの見通しを示した。

  三菱UFJ国際投信債券運用部の樋口達也エグゼクティブ・ファンドマネジャーは、恐らく中国債券のパフォーマンスは「インデックスに入っている国でかなり上の方」と指摘。利回りは3%あるため、「そこを持たないでインデックスに勝つのは非常に難しくなってくる」との見方を示した。

  GPIFは基本ポートフォリオで外債の保有比率を25%をめどとしている。WGBIをベンチマークとする外債ポートフォリオのパッシブ運用部分は昨年3月末時点で約15.8兆円。GPIFはまた、別のカスタマイズされたWGBIをベンチマークに一部の資金を運用する。

  日本の投資家は、海外の機関投資家を対象に香港経由で中国債券市場にアクセスする新たな投資ルートが導入された約4年前から中国国債の購入を増やしてきた。財務省のデータによれば、2017年7月以後、2カ月を除いて中国国債を買い越している。

緊迫する日中関係

  日中関係は領土問題や歴史認識を巡って緊張状態にある。尖閣諸島(中国名:釣魚島)の周辺海域で緊張が高まっている上、中国海警局に外国船舶に対する武器使用を認める海警法の成立により、日本の対中姿勢は一段と強まった。

  日本は最大の貿易相手国である中国への経済依存が強まる一方、安全保障面では米国に依存していることが日中関係をさらに複雑にしている。自民党議員からは、中国の人権侵害問題を巡り他の主要7カ国(G7)が発した制裁に日本も加わるよう求める声が上がっている。

  政治だけでなく実務的な課題もある。ニッセイアセットマネジメント債券運用部の三浦英一郎リードポートフォリオマネジャーは、投資家は流動性と取引決済の複雑さを懸念し、さらに中国から得られる情報量についても不安視していると指摘。「中国は資本規制などがある。公的年金で日本の巨大資金が中国債券に入るということをあまり良く思わない人もいるのではないか」と語った。

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