(ブルームバーグ): いわゆる「オールドメディア」に属する米バイアコムCBSの株価が数週間で約300%値上がりし、リテール投資家の間では、ゲームストップ同様に過小評価されていたとか、買収の標的かといった見方が飛び交った。

  ウォール街の大手トレーディング業者の一部幹部は、その動きの背景を承知していた。ビル・フアン氏のファミリーオフィス、アルケゴス・キャピタル・マネジメントが、バイアコムCBS株の非常に大きなポジションを積み上げていた。

  世界中の金融機関が、さらに多くの株式の買い増しに必要なレバレッジをフアン氏に提供し続けた。しかし、事情に詳しい複数の関係者によれば、その投資の全容を銀行は把握できていなかった。バイアコムCBS株で100億ドル(約1兆1000億円)相当、他の幾つかの銘柄でも見えにくい形で巨大なポジションを蓄積していた。

  バイアコムCBSへの投資が先週破綻を来し、アルケゴスに関係するポジションの解消を余儀なくされる局面で、金融機関があれほど脆弱(ぜいじゃく)だった背景には、監視およびリスク管理の不備が挙げられる。

  異常なマージンコール(追い証の請求)という現実に対処し、損失軽減の方策を検討するための先週の協議で、クレディ・スイス・グループの代表が行った提案が、エスカレートする状況の混乱ぶりをうかがわせる。3月22日の終値で100ドルを突破した後、その後急落したバイアコムCBSの株価は、人為的に押し下げられたように見えるとの指摘もあり、回復するか様子を見てはどうかと提言された。

  非公開企業のため大部分の投資家に義務付けられる情報開示を免れたアルケゴスは、デリバティブ(金融派生商品)を活用し、桁外れの投資が可能になった。一部の関係者は、フアン氏のポートフォリオが最大1000億ドル相当にひそかに達したと推定する。

  金融機関の一部は、アルケゴスのポジション破綻で果たした役割が業績に与える影響を情報開示しているが、自分たちの後押しで、フアン氏がどうして市場でこれほど力を持つようになったかコメントしようとしない。フアン氏に取材を試みたが、担当者を通じてコメントを控えると回答した。

  マージンコールなどに関与した関係者によると、資金を提供した野村ホールディングスやゴールドマン・サックス・グループ、モルガン・スタンレー、クレディ・スイスのプライムブローカレッジ部門が、アルケゴスの動きをつかんでいたのは明白だ。これらの金融機関は自分たちが資金を手当てしたトレードをもちろん承知し、フアン氏の借入総額もある程度分かっていた。

  だが関係者によれば、複数の金融機関に同時並行でポジションを持ち、同じ少数の銘柄にさらに多くのレバレッジを積み上げていた事実は、把握しきれていなかった。多くの顧客がそうした不透明さを要求するとしても、それは貸し手のリスク管理能力に明らかに影響する。

  単一顧客がレバレッジを用いて積み上げた一連の大きなポジションの解消と、同じ顧客が持つ同じようなポジションをライバル行が同時に清算する時にそうするのでは、話が異なる。

  複数の出席者によると、フアン氏のプライムブローカー各社は緊張を緩和するため、一時休戦の可能性を3月25日に協議したが、連帯の試みは長く続かなかった。一部はこの日のうちにポジションの処分を可能にするデフォルト(債務不履行)通知をアルケゴスに送った。

  2008年の世界的な金融危機のさなかに米連邦預金保険公社(FDIC)総裁を務めたシーラ・ベアー氏は「今回の問題が、規制金融機関のプライムブローカレッジ部門(そして規制・監督機関)にとって、高度にレバレッジを利用するヘッジファンドとの関係を見直すきっかけになってほしいものだ」とツイートした。

  金融規制・監督当局が今回の影響を検証する過程で、もうかる顧客にあれこれ尋ねることなく資金を提供してきたウォール街の慣行が、思わぬ注目を集めつつある。米証券取引委員会(SEC)はフアン氏の取引に関する予備的調査に既に着手し、スワップの利用とプライムブローカーからのレバレッジへのアクセスについて調査するため、他の大口投資家とも接触している。業界に規制の影が忍び寄りつつある。

(SECの予備的調査について追加して更新します)

©2021 Bloomberg L.P.