(ブルームバーグ): 日本銀行の黒田東彦総裁は、世界的に取り組みが加速している気候変動問題について、中央銀行の使命に関わる重要な課題と位置付け、金融政策面での対応も「当然議論になる」と語った。金融政策で取り組む可能性を、従来よりも明確に打ち出した。

  27日に行ったブルームバーグとの単独インタビューで語った。インフレ懸念の強まりに対し、緩和継続を主張している米国の金融政策は、日本のデフレ下での教訓が反映されているとの見方も示した。

  黒田総裁は、気候変動問題について「実体経済や金融システムに影響を与える重要な要素であり、非常に関心を持っている」と表明。産業や企業によって資金配分にゆがみが生じる可能性など「考慮すべき要素はまだある」としつつ、日銀として「物価安定と金融システムの安定という使命に則して必要な対応を検討していきたい」と語った。

  世界の中央銀行や金融当局は金融システム安定の観点から対応を進めており、先行する欧州では金融政策運営での取り組みも検討されている。ただ米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長と同様、金融政策面での対応について明確な方向性は示していなかった。

  イングランド銀行(英中銀)は先週、社債の買い入れでは発行体の気候変動問題への取り組みを考慮すると表明。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は環境に優しい経済へ移行する欧州連合(EU)の取り組みを支持する姿勢を示した。

  菅義偉政権は、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げ、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラル(脱炭素)社会の実現を目指している。  

  総裁は金融政策の具体的な手段に言及しなかったが、ブルームバーグが4月に実施したエコノミスト調査では、41人中34人が新たに導入した貸出促進付利制度について、いずれは成長力強化やESG(環境、社会、企業統治)への取り組みを企業に促すツールとして活用するとの見方を示した。

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  貸出促進付利制度の活用について総裁は、あくまでも利下げを行う場合に金融仲介機能への悪影響を緩和させるための措置とし、「気候変動に応用するものではない」とした。一方、同制度の運営は「現在のコロナ対応オペなどのように根っこにある貸付制度の内容次第である」とも語った。

  気候変動対応を目的とした環境債購入の可能性について、総裁は「中銀がグリーン債を購入してはとの議論があるが、それは金融政策としてではなく、資産運用としての議論が多い」と述べた。

グローバルインフレ

  世界的なインフレ懸念に関して総裁は、物価上昇が最も顕著な米国ではFRBが緩和的な金融政策を維持する姿勢を強調していると指摘。FRBの対応は、一度定着した低インフレの克服には時間がかかるという認識に基づいており、「日本の長期的なデフレ経験から得られた教訓と言える」との見解を示した。

  ワクチン接種の進展や経済対策の効果を背景に、世界経済は回復力を強めており、各国の中銀はコロナ禍の非常手段からの脱却の動きを見せている。

  カナダ中央銀行は4月に他の中銀に先駆けて資産購入の縮小(テーパリング)に着手。米国ではクオールズFRB副議長(銀行監督担当)が26日、米経済が引き続き力強さを示すなら、今後数カ月の連邦公開市場委員会(FOMC)で債券購入を縮小する計画の議論を始めることが重要になるとの見解を示した。

  日本では消費者物価がマイナス圏で推移しており、黒田総裁は「目標である2%の達成には時間がかかる」と述べ、達成に向け「引き続き強力な金融緩和政策を粘り強く行っていく」と表明した。日本経済の先行きは「今年末にパンデミック以前の水準に戻るとみている」としたが、物価2%が遠い中では「日本銀行の強力な金融緩和はパンデミックから経済が回復した後も継続されるだろう」と語った。

  緊急事態宣言が続く中、企業の資金繰りは「全体として引き続き厳しさがみられる」とし、9月末が期限の新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラムは「当然、感染症の影響を踏まえ、必要と判断すればさらなる延長も検討する」と説明した。 

  総裁は先行きの世界経済について「国・地域ごとに回復のペースにばらつきが出てくる」と述べ、金融政策運営は「それぞれの国の経済・金融・物価情勢に合わせて適切に運営される」と指摘した。金融政策の方向性の違いは「何の問題もない」としたが、過程で生じ得る金融市場の変動には「注視していく必要がある」と語った。

  黒田総裁は2013年3月に第31代日銀総裁に就任。その後2度再任され、現在の任期は23年4月8日までとなっている。76歳。

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