(ブルームバーグ):

世界最大のエンジンメーカーであるホンダは、電気自動車(EV)など温室効果ガスを排出しないゼロエミッション車への完全移行に向けた取り組みを加速させている。三部敏宏社長が就任早々公表した計画は現時点で日本の自動車メーカーの中で最も先進的だが、そこには困難に挑戦して新しい価値を生み出す「ホンダらしさ」を取り戻す狙いもある。

  「まず高い目標を掲げることで全員で目指す姿を共有し、実現に向けチャレンジしたいと考えた」。三部社長が就任から約半月後の4月23日に開いた会見での一言だ。同時に、2050年に温室効果ガスを全体でゼロにするカーボンニュートラルの達成に向け、40年までに先進国で販売する全ての車をEVか燃料電池車(FCV)などのゼロエミッション車とする方針を明らかにした。

  トヨタ自動車は5月、30年時点のEVとFCVの販売比率を北米15%、日本は10%とし、40年時点の見通しは示さなかった。ホンダは30年時点でも北米40%、日本20%とより高い目標を掲げている。

  日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ社長)が昨年末以降、性急なEV化の推進は電力問題や雇用の喪失を招くなどと政府に苦言を呈してきたのに対し、三部社長は「先送りして最後だけ上げることはできない」と段階的な改善が必要だと主張。30年時点で46%削減の目標を掲げる「政府の提案は極めて妥当な数字」と述べた。

  ジェフリーズ証券の中西孝樹アナリストは4日付のリポートで、ホンダの目標は30年時点での北米におけるゼロエミッション車の普及率を20ポイント程度上回る可能性があると予想。北米で当初描いていたガソリンエンジンも併用するハイブリッド車(HV)の投入を省略し、直接EVなどに向かうことを検討し始めたのではないかと推察した。

エンジンメーカーで頂点

  ホンダは創業者の本田宗一郎氏により戦後設立され、日本の自動車メーカーの中では歴史が浅い。創業間もない時期の世界最高峰のバイクレース、マン島TTでの活躍や米国の厳しい排ガス規制をクリアしたCVCCエンジンの開発など、自ら設定した高いハードルを乗り越えることで現在の地位を築いてきた。

  1980−90年代にはF1レースで勝利を重ね、エンジンメーカーとして頂点を極めた。今では船舶や発電機、芝刈り機用なども含め年間約3000万台のエンジンを生産しており、EV化の影響を大きく受けることが見込まれている。

  EVの普及に向けコストや航続距離、充電インフラなど課題は山積している。技術者でもある三部社長も、将来に向け必要なものが全てそろっているわけではなく、「技術的、中身を含めて難しさは十分理解している」という。

  一方で、「顧客にとって価値があるものをできるだけ早く出していくのがホンダの使命」だとし、「根拠は何かと言われると、はっきり説明は今のところできない」ものの、目標達成は可能だと述べた。

  三部社長は23日に開いた定時株主総会で、内燃機関でカーボンニュートラルを実現できないのかとの株主からの質問に対し、eフューエルと呼ばれる液体の代替燃料などは現状ではコストが高くホンダとしてはEVやFCVを本命視していると発言。軽自動車のEV導入についても意欲を見せた。

はしごを外す

  「2階に上げてはしごを外す」。就任会見で三部社長が発したメッセージは、難題に取り組む際のホンダの伝統的手法を踏襲したものだと同社の元エンジニアで、経営企画室参事も務めたコンサルタントの杉本富史氏はみている。

  杉本氏は、親交のある三部社長について温和な性格だが、物事を俯瞰的に捉えることができるタイプと分析。今回のEV化方針は世の中の情勢を客観視し、「やれること」ではなく、「やらなければならないこと」を伝えたもので、「CEO(最高経営責任者)でなければ出せないメッセージ」と評価した。

  ホンダのエンジニアにとっては自らの存在意義が否定されたと受け取られかねない内容だが、三部社長自身がエンジン開発に携わってきた技術者のため、説得力があるとも杉本氏は話す。

  自動車調査会社フォーインの田中八智代アナリストによると、EV化目標の前倒しや完全EV化の実現時期を明示する自動車メーカーが増えている。田中氏は欧州などで将来の自動車環境規制が一段と強化されたほか、持続可能な開発目標(SDGs)の観点から資金調達への配慮も背景にあるとみる。

激動の時代

  現時点で技術的な裏付けがないのは各メーカーとも同じだが、ホンダの目標は日本勢の中では現時点で最も高いと田中氏は指摘。30年時点の北米の目標数値も「かなり思い切った数字」とみている。

  トヨタとの違いは、ホンダの販売がEV普及率の高いカリフォルニア州で大きい点などが挙げられるが、規制に対応するだけでなく、「先々の技術を自分たちが先に入れていくという意思表明」とも田中氏は受け止める。

  三部社長は就任会見で、最近のホンダには元気がないと社外の人から指摘されることが多いと述べた。「ホンダらしさ」を「社会課題や新しい価値、ときには強い競合相手に立ち向かう企業姿勢みたいなもの」と定義した上で、それを取り戻すことに強い意欲も示した。

  さらに三部社長は、「プレッシャーにはかなり強い方」と自身を分析。業界の変革期にかじ取り役を担う心境について「安定した時代よりも、激動の時代に自分が存在することに非常にわくわくしている」と語った。

(株主総会での三部社長の発言を追加して更新します)

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