(ブルームバーグ): 東芝は10日、2020年7月の定時株主総会の運営を巡り、筆頭株主のエフィッシモ・キャピタル・マネジメントが選任した弁護士による調査報告書を受領したと発表した。調査を担当した弁護士らは、議決権行使を妨害するような行為があり、定時株主総会が公正に運営されたものとは言えないと結論付けた。

  発表された調査報告書によると、東芝は定時株主総会でのアクティビスト(物言う株主)への対応について、経済産業省に支援を要請。改正外為法に基づく権限発動の可能性などを背景とした不当な影響を一部株主に与えていたと指摘した。 

  また報告書は、不正会計問題など東芝のガバナンス(企業統治)を問題視していたエフィッシモに株主提案をさせないよう画策したことをうかがわせる資料の存在も指摘した。車谷暢昭社長(当時)が定時総会前に菅義偉官房長官(同、現首相)との朝食会に出席し、「株主総会に関する課題」を説明したと推認されるとしている。

  調査に対し車谷氏は、菅氏と直接会話できなかったと答えたが、車谷氏の部下の加茂正治執行役上席常務がその後、菅氏との朝食会で持参した資料をもとに説明した際、菅氏から「強引にやれば外為で捕まえられるんだろ」とのコメントがあったという。こうした経緯から車谷氏の説明は信用できないとしている。

  菅首相は10日夕、記者団に対して、この発言について「まったく承知をしていない。そのようなことはない」と否定した。

  報告書では不当な影響の一例として、東芝は米ハーバード大学の基金に議決権を行使しないよう当時経産省参与だった「M氏」に事実上交渉を依頼。同参与は基金と接触し、結果として基金は議決権を行使しなかったとしている。

  報告書にはM氏のツイッター上の投稿も盛り込まれており、ツイートの内容からM氏が経産省元参与の水野弘道氏であることが確認できる。水野氏に電子メールで取材を試みたが、コメントは得られていない。

  経産省の平井裕秀商務情報政策局長は5月12日の衆院経済産業委員会で、1月まで参与だった水野氏からコーポレートガバナンスや外為法の運用についてアドバイスをもらう関係にはあったが、個別投資家の議決権行使に対する働き掛けを依頼したことはないとコメントしていた。

  調査を担当した弁護士は記者会見で、車谷氏と菅氏との具体的なやり取りは確認できていないと話した。また、東芝と経産省の関係については、株主の権利を事実上妨げるような行為につながるもので、やや不当な関係性が見受けられると指摘した。

  その上で、コーポレートガバナンスの観点から、どのようにすれば監査委員会のけん制機能が働くのか、今回の件を掘り下げていくと教訓が得られるのではないかとの見解を示した。調査の過程では対象者から特に罪の意識や反省の弁は聞かれなかったという。

東芝、後日対応を開示

  東芝は今回の調査結果の内容を慎重に検討の上、対応などを後日開示する方針だ。

  エフィッシモは昨年の定時株主総会で議決権の扱いに不自然な点が多く存在しているなどとして臨時総会の開催を請求。今年3月に開かれた臨時総会では、株主に対する圧力の有無などを追及するエフィッシモの提案が賛成多数で可決され、弁護士による調査が進められていた。

  シンガポールのユナイテッド・ファースト・パートナーズのアジア調査責任者、ジャスティン・タン氏は、東芝はいま岐路に立たされていると指摘。臨時総会でもし、他の株主がエフィッシモの提案に賛成していなければ、この不正行為は隠蔽(いんぺい)されていただろうと分析している。

  エフィッシモは昨年の定時総会では組織風土やガバナンスの問題解決のため、創業者の今井陽一郎氏ら3人を取締役として提案したが否決されていた。一方、車谷暢昭前社長の賛成票も57.20%にとどまっていた。車谷氏は4月に辞任した。

  今回の報告書ではこのほか、経産省が別の大株主でシンガポールを拠点とする3Dインベストメント・パートナーズに、エフィッシモ案に賛成した場合、外為法に基づく何らかの措置が取られる可能性を示唆。3Dの議決権行使に関する判断に一定の影響を与えたなどとも指摘した。3Dも昨年の定時総会で独自の取締役候補を提案していた。

(調査人弁護士による会見の内容を追加して更新します)

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