(ブルームバーグ): 世界の200余りの国・地域から1万1000人もの選手を2週間ほどの間にただ一つの都市に送り込むのは最も条件の良い時であっても難しい作業だ。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)でフライトスケジュールがめちゃくちゃになった上に各国が国境を閉ざし、ワクチン接種と複数回の検査なしにはどこへも行けない状態での困難は想像に難くない。

  東京五輪の開幕がわずか18日後に迫る中、各国・地域の五輪委員会関係者にとって頭の痛い問題だ。メダルの数や試合後のパーティーを心配するよりもまず、時間通りに日本に到着するだけでも大仕事だ。

  フィジーからは7人制ラグビーの男女のチームに加え水泳やセーリングの選手数人が参加するが、ナンディ国際空港から成田への移動に使うのは、普段マグロやマヒマヒ(シイラ)などの冷凍水産物と航空郵便を運んでいる貨物輸送機だ。

  フィジー・スポーツ協会・国内オリンピック委員会のロレイン・マール会長は「移動が大きな難題であることは確かだ。フィジー航空は現在、商業運航を行っていないので、貨物便で行くことにした」と話した。

  フィジーは他の南太平洋諸国と連絡を取り、他の島々を回って全員を集めて行くことを模索したが、商業的に実行可能な案ではなかったという。

  パプアニューギニアのチームはオーストラリアのブリスベンに飛び、そこから東京へ行く計画だ。サモア選手団はニュージーランドのオークランドに行きニュージーランド航空を利用する公算が大きい。

  日本に行くのに何千マイルも遠回りしなければならない国もある。

  スリランカのチームは通常であれば、シンガポール乗り継ぎで東京へ向かうはずだった。しかし1日平均2000人近い新規感染者が出ているスリランカは、多くの国の入国禁止リストに載っている。シンガポールは最近スリランカ渡航歴があればトランジットであっても受け入れない。

  そこで、バドミントンや柔道、アーチェリー選手を含む10人余りのチームはカタール航空でドーハ経由のフライトを予約した。スリランカオリンピック委員会のスレシュ・スブラマニアム会長が明らかにした。状況が変わった場合に備えてスリランカ航空にも予備の予約をしているという。

  「日本に着いてから誰かが病気になることがないよう祈っている。新型コロナ問題に対応するため追加の医師が帯同している。ありとあらゆる予防措置を取っている」と同会長は述べた。

  ほとんどの選手は必要な回数のワクチン接種を受けており、組織委員会は到着前のウイルス検査での陰性結果を要求しているが、既に想定外の事態は生じている。先月日本に到着したウガンダの選手団の2人が、あらかじめワクチン接種を受けていたにもかかわらず検査で陽性となった。この週末にはセルビアのボートチームの選手1人の陽性が判明した。

  世界最速の女性でも、この異例の五輪で移動を巡るさまざまなハードルを回避することはできない。100メートルで2度の金メダルを獲得し今回も金メダルの呼び声の高いジャマイカのスプリンター、シェリーアン・フレーザープライス選手(34)も、複雑な乗り継ぎと待ち時間、大量のペーパーワークを乗り越えなければ東京にたどり着けない。

  同選手はまず首都キングストンから米フロリダ州マイアミへ、次にロンドンへ飛んでから、東京へ向かう。新型コロナによる航空運賃値上がりで、キングストンから東京への最廉価のエコノミーチケットはエクスペディアのサイトで5000ドル(約55万6000円)近くする。

  フェンシングにスケートボード、射撃、水泳、体操などの選手で300人近い大所帯のブラジルチームは、トロント経由のエア・カナダ便が欠航になったためあわててルフトハンザ便を予約した。

  ブラジルオリンピック委員会のパウロ・バンデルレイ・テイシェイラ会長は「パンデミックのために、創造性を必要とするような変更をいろいろ行わなければならなかった」と述べ、東京に運動用具を搬送することさえ「本物の軍事作成」のようだと語った。

  「航空会社と契約して運賃の8割を払い込んでいたにもかかわらず、会社側がルートを変更してわれわれのフライトをキャンセルしてしまった」という。ルフトハンザでのフランクフルト経由の航路は運賃が高くなるが、少なくとも欧州で練習している選手の一部を乗せていける利点があると同氏は語った。

  パンデミック禍中の五輪がもたらすもう一つの困難は、多くの選手が通常なら大会前に行えたはずの場所で練習ができないことだ。五輪参加資格を持つための競技会への出場も国際的な渡航制限などで極めて困難となっている。

  ジャマイカのトラック競技チームは通常なら五輪前に欧州で何週間か練習したり大会に出場したりする。日本の鳥取での事前合宿も中止されたため、リレーのバトンパスの練習の時間が少ないとフレーザープライス選手は話した。

  2016年のリオデジャネイロ五輪のセーリング競技金メダリスト、アルゼンチンのサンティアゴ・ランヘ選手はまだしも幸運だった。本国を離れて風と気候の条件が日本に近いイタリアのシチリアで調整し、今はスペインのバルセロナで今週中の東京行きフライトを待っている。

  「通常はコンディションを知るために少なくとも90日前に現地入りするが、今回は8日しかない。セーリングに8日は十分ではない」とランへ選手は話した。アルゼンチンでは新型コロナ関連の制限のため昨年は数カ月にわたり練習ができなかったという。

  チームメートのセシリア・カランサ・サロリ選手といっしょに借りているシチリアの家には、日本を感じるために富士山の写真が飾られている。「普通の状況では1年に少なくとも10試合をするが、昨年は2試合しかしていない」とランへ選手は述べた。

  そしてもちろん、国際的なハブではない遠隔地の空港で荷物と搭乗券の最後のチェックをしている選手たちの心には常に、新型コロナがある。「いつもならレースのことを考えるが、今は新型コロナへの恐怖も心の中にある」とエチオピアの長距離、セレモン・バレガ選手は述べた。

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