(ブルームバーグ): 最近の香港では、何気ない会話がすぐ移住の話になる。移住先はどこにすべきか、仕事や学校をどう見つけるかといった話だ。地下鉄駅では、ロンドン郊外の新興住宅地の広告が目に付く。中国政府の締め付けが急速に強まる現実を目の当たりにし、人口750万人の香港からはすでに多くが新天地へと飛び立った。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に関連した制限措置が解除されれば、後に続く人はさらに増えるだろう。少数の若い民主活動家だけでなく、親中的な学校カリキュラム導入や生徒らの相次ぐ逮捕に動揺する平均的な家庭もだ。

  もちろん、香港は数百年にわたって人の往来が繰り返されてきた。1997年の中国返還前の10年間には、およそ50万人が香港を去り、多くはカナダへと向かった。天安門事件後の数年間がピークで、年率で人口の約1%が移住した。

  今回はさらに劇的な様相を呈している。昨年はパンデミックのまっただ中にあったにもかかわらず、台湾だけで1万800人余りの香港市民が居住許可を取得した。この数は前年のほぼ2倍だ。今年1月末に英国が海外市民(BNO)旅券の受け付けを開始すると、2カ月間で3万4300件の申請があった。議会に提出された公的な見積もりによると、通年では約12万件と、1990年代前半に香港から移住した年間人数の2倍になることが予想されている。これは年金の脱退や、多くの移住プログラムで必要とされる犯罪歴の照会申請増加などでも裏付けられる。

  中国も黙って見ているわけではない。親中派の評論家は欧米で移民を待ち受ける差別を懸命になって唱え、中にはヒステリックな発言もある。香港の議会は中国本土と同様、当局の判断で市民の出国を停止できる法律を成立させた。当局者はまた、BNO旅券の出国者が香港の年金積立金を請求することも妨害している。これらはどれも、大規模な移住があまり忠実でない市民を排除する有益な方法だとは捉えられていないことを示唆する。

  一方、香港残留を前向きに考えさせるような措置は事実上、全く取られていない。当局者は香港市民にとって学校教育が極めて重要な問題だと十分に認識していながら、愛国教育の導入を加速させている。この愛国教育では、学校に入ったばかりの児童にすらも昨年施行された香港国家安全維持法(国安法)の下で何が違反に当たるかを教え込まれる。

  香港からの移住増加に対して、中国政府の反応は大した問題ではない、というようなものだ。十分な数の市民は残り、本土から人はやって来る。1980年代のようには、中国は香港を必要としていない。これはある程度、真実だ。だが、そうなれば香港はもはや2つの世界の架け橋でなくなり、国際的な思考を持つ金融都市ではあり得ない。地元で育った若い人材は失われ、高齢化が一層進んだ中国の一都市になる。本土の大学を卒業した優秀な若者は、どこか別の場所を選ぶだろう。開放性や経済成長の主要な指標である外国人の数などは、入域が出域に比べてすでにはるかに少ない。

  この先に待ち受けるのは香港の完全な破壊ではない。情報管理が強化され、司法の独立性が踏みにじられる中で、企業や当局者が必死に否定する香港の空洞化こそが将来の姿だろう。

(クララ・フェレイラマルケス氏はブルームバーグ・オピニオンの商品・ESG問題担当コラムニストで、以前はロイター・ブレーキングビューズのアソシエート・エディター、シンガポール、インド、英国、イタリア、ロシアでロイター特派員を務めた経歴があります。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

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