(ブルームバーグ): 日本郵船が21日、脱炭素への移行事業に調達資金を充てるトランジションボンド(移行債)を国内で初めて起債した。

  地球温暖化対策で再生可能エネルギーへの投資が世界的に進む中、二酸化炭素などの温室効果ガスを多く排出する産業の脱炭素への移行を支える資金調達手段として、トランジションファイナンスへの関心が高まっている。国内では3月に川崎汽船がトランジションローンを活用。これに郵船の債券が加わり、トランジションファイナンスが本格的に動き出す。

  郵船は2050年度に温室効果ガス排出量(原単位)を15年度比で半減させる目標の達成に向け、液化天然ガス(LNG)やアンモニアを燃料とする船舶、洋上風力発電事業などに投資するエネルギー分野の事業タイムラインを示しており、今回債で調達した資金はその投資に充てる考えだ。

  LNG燃料船は将来のゼロエミッション船を実現するまでのブリッジ(つなぎ)ソリューションの一つと位置付けており、総額2000億円弱を投じて28年度にかけて計20隻を導入する計画。同社の広報担当者はこうした実態に見合った調達手段がトランジションボンドだと判断したと述べた。郵船のESG(環境、社会、企業統治)債は18年に海運業初のグリーンボンド(環境債)を発行して以来3年ぶり。

  発行に当たり、国際資本市場協会(ICMA)が企業に求める開示情報などをまとめたハンドブックや、経済産業省などが策定した「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」に適合するとのセカンドオピニオンをDNVビジネス・アシュアランス・ジャパンから取得。DNVは、郵船のトランジション実⾏計画は信頼性があり、野心的で達成可能であると評価した。

  今回債に投資した第一生命保険の杉野泰亮債券部長は「投融資を通じて低炭素社会への移行や環境イノベーションの創出を支援することも目指しており、低炭素社会への移行に向けた資金供給には積極的に取り組む方針」と説明。一方、投資に際しては「脱炭素社会の実現に向けて長期的な戦略にのっとった温室効果ガス削減の取り組みとなっているか、十分な検証が必要だ」とも指摘した。

1兆円マーケットも

  トランジションボンドは香港の電力会社キャッスル・ピーク・パワーグループなどが先駆けとなり、17年ごろから始まった。ことしは中国建設銀行などが発行した。

  国内では火力発電最大手のJERAや商船三井がローンも含めて検討中。郵船の起債を受けて、他の業態でもトランジションボンドへの関心が高まっていると、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の田村良介ESGファイナンス&新商品チームヘッドは話す。

  今年度は「トランジション」の概念を市場関係者が認識していき、経産省の産業別ロードマップが出そろうとみられる来年度以降に「一気に拡大していく」と田村氏は読む。トランジションセクターとなる重厚長大の大企業が技術的にしのぎを削る形となって起債額は大きくなり得るとし、時間がかかっても環境債と並ぶ「1兆円クラスのマーケットになるのではないか」と述べた。

日本での意義大きい

  野村サステナビリティ研究センターの江夏あかねセンター長は、エネルギーの大部分を輸入に頼り、東日本大震災の原発事故の影響もあり化石燃料への依存度が比較的高い日本にとって「トランジションファイナンスはとても意義がある」と考える。

  江夏氏は、企業がトランジションファイナンスで資金を調達する際に重要なこととして、会社としてのトランジション戦略に「トップを含めてコミット」した上で、戦略によるインパクトを計測して公表するなど、実際に「動いているという実績」を積むことを挙げる。科学的根拠に基づいた環境目標を示すなどで、投資家への説明責任を果たす姿勢も求められると語った。

(第6段落に投資家のコメントを追加しました)

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