(ブルームバーグ): 元日本銀行副総裁で日興リサーチセンターの山口広秀理事長は、2%の物価安定目標の達成に向けて異次元金融緩和を続ける日銀について、資産価格の上昇などの副作用を意識し、現実的に達成可能な目標に変えていく必要があるとの考えを示した。

  山口理事長は、「2%の物価目標の達成だけを考えて、ひたすら超金融緩和を続けるわけにはいかない」と指摘。より柔軟な政策運営で、過剰な流動性を吸収していくプロセスが必要であり、「単に物価だけではなく、例えば資産価格を意識した政策にすべきではないか。2%物価目標の政策としての限界を意識してやっていくべきだ」と語った。

  山口氏は2008年10月から13年3月の黒田東彦氏の日銀総裁就任前まで副総裁を務めた。現在は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)経営委員長も務める。

  13年の2%目標導入から8年余り経過したが、「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では予測最終年度の23年度でもコア消費者物価指数(CPI)上昇率は1.0%にとどまり、達成は見通せていない。一方、同じ2%目標を掲げる欧米中銀とともに緩和策を続ける中で、株式や不動産などの資産価格は世界的に上昇。新型コロナウイルス感染症に対応した財政出動と金融緩和は、過剰流動性の拡大を助長した。

  山口氏は、金融政策のプラス、マイナス効果の両方を語らなければ「政策を見直すインセンティブが全く働かない」として、政策評価プロセスの導入を提唱。より長期の視点から金融政策や日銀のバランスシートの正常な姿やその実現に向けた行動ついて、「日銀がしっかり検討し、世の中に示していく必要がある」と述べた。

  日本だけが2%物価目標の旗を降ろすことによって生じ得る円高への懸念に対しては、「日本の企業の円高耐久力はずいぶん高まってきている」とし、量的・質的金融緩和の導入当時ほど「円高への恐怖感は強くない」と述べた。

「楽観論」捨てよ

  新型コロナ対応の財政・金融政策については、「ベクトルの向きが間違っていたとは思わない」と評価。もっとも、楽観論や希望的観測に基づいた政策対応はうまくいかず、後手に回りかねないため、菅義偉首相を引き継ぐ新政権には「慎重な、厳しい先行き見通しも前提とした政策対応をしっかり考えていただきたい」と要望した。

  企業の事業継続や雇用維持を支援する財政・金融面からの追加措置については、必要なら「躊躇(ちゅうちょ)すべきではない」と指摘。ただ、支援が長期化すれば新陳代謝を妨げ、生産性や収益性の低い「ゾンビ企業の延命に手を貸すことになりかねない」ため、「状況が改善されれば直ちにやめるべきで、そこはっきりさせておく必要がある」と語った。

  22年度予算の概算要求額は110兆円を超える見通しで、与党からは数十兆円規模の補正予算が必要との声が出ている。こうした中、財政悪化に伴う社会保障制度の持続性への不安が「消費者マインドを抑え込んだ」と山口氏は分析。短期的な景気浮揚と長期的な財政健全化は分けて考え、「現実的な経済成長シナリオの下で財政再建をどのように実現していくのか、説得力のある形で示していく必要がある」と述べた。

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