(ブルームバーグ): 自民党総裁選への立候補見送りを表明した菅義偉首相。わずか1年で政権に幕を下ろすことになるが、持続可能な社会を実現する取り組みに使途を限定する「サステナブルファイナンス」を促進させたという点で金融市場関係者からの評価は高い。

  「2050年までに脱炭素社会の実現を目指すことを宣言する」。昨年10月の衆院本会議での所信表明演説。菅首相がひときわ力を込めると議場内は拍手で沸いた。

  この脱炭素宣言がなければ、国内でのESG(環境・社会・企業統治)債市場の発展はもちろん、環境整備もこれほど迅速には進まなかった。大和証券の大橋俊安チーフクレジットアナリストはこう指摘した上で「菅首相はサステナブルファイナンスの促進というレガシー(政治的遺産)を残してくれた」と語る。

  マニュライフ・インベストメント・マネジメントの押田俊輔クレジット調査部長も「脱炭素社会の実現目標を表明したことが起爆剤となり、日本企業の取り組みが一変した」とその功績を評価する。

  ブルームバーグのデータによると、資金使途を環境分野に絞るグリーンボンド(環境債)などESG債の2021年度の発行額は、14日時点で総額約1兆200億円。脱炭素社会の実現に向けて企業の資金調達は活発になりつつある。

  INPEXは10月、再生可能エネルギー関連事業の新規投資やリファイナンスに充てる目的で、同社初となる環境債の起債を予定する。発行業種も広がり、今年度のESG債発行は総額3兆円前後と前年度比で約3割拡大するとの見方も出ている。

  環境整備も進む。経済産業省や金融庁、環境省は今年5月に「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」を策定。脱炭素への移行を目指す取り組みの資金調達を後押しするもので、7月には日本郵船が国内で初めてトランジションボンドを発行した。

  企業に対し気候変動リスクなどに関する情報開示を義務付ける方針も具体化しつつある。金融庁の「サステナブルファイナンス有識者会議」で委員を務め開示に関する議論に携わってきたバンク・オブ・アメリカ日本法人のBofA証券の林礼子副社長は、「企業の開示を精緻化していくことによってESG関連への投資を促し、資本市場のお金をサステナブルファイナンスに向かわせることにつながる」と話す。

  次期政権でもサステナブルファイナンス促進の流れは続きそうだ。自民党総裁選にいち早く立候補を表明した岸田文雄前政調会長は、再生可能エネルギーを最大限導入するほか、グリーンボンド市場の創設などにより環境投資を促進することを経済政策に掲げる。

  同じく立候補を表明した河野太郎規制改革相も再生可能エネルギーを最優先に取り入れる考えで、高市早苗前総務相は環境政策とエネルギー政策を一体化するため「環境エネルギー省」への再編を主張する。

  BofA証の林副社長は今後、脱炭素社会の実現に向けて政府だけでなく日本銀行や証券取引所、事業会社なども含めた「あらゆるステークホルダーが意識を持ち、一つずつ取り組みを進める必要がある」と語った。

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