(ブルームバーグ): 東京都では4回目の緊急事態宣言が再延長された。酒類の提供停止や時短営業などの要請に従ってきたバーやレストランなどの飲食店も我慢の限界に近づきつつある。

  新橋で居酒屋「やきとんユカちゃん」を経営する藤嶋由香さんは、「私たちばかりいじめられている感じがする」と語った。「もう堪忍袋の緒が切れた」。

  公衆衛生の専門家らは、夜間に酒類を提供する飲食店が新型コロナウイルス感染症拡大の温床となっている可能性があると分析。緊急事態宣言の下、飲食店には酒類の提供停止や午後8時までの時短営業などが要請された。

  要請に反発姿勢を強める飲食店経営者の増加は、政府のコロナ対策に対する多くの国民のいら立ちを表している。この不満は菅義偉首相の退陣表明につながった。

  政府は9日、東京や大阪など19都道府県の緊急事態宣言の期限を30日まで延長することを決定した。一方、菅首相は社会経済活動の正常化の道筋をつける意向を表明し、行動規制緩和の手段としてワクチン接種証明を活用する考えを初めて示した。ただ、既に行き詰まっている事業者にとっては遅きに失した感がある。

東京の緊急事態宣言を30日まで延長へ、行動制限緩和は最終調整中

  次期首相はコロナ危機を乗り越え、経済の安定に向けて戦略を練り直す必要がある。コロナワクチン接種で出遅れた日本は接種率で米国や英国などに追いつきつつあるが、感染拡大の抑制に法的拘束力のない自粛要請や時短・休業要請に今もなお大きく依存している。こうした対策は長引けば長引くほど効果が薄れていく。

  8月末の木曜夜の新宿。ネオンが輝く飲み屋街は多くの人でにぎわい、緊急事態宣言下で外出自粛要請が出ていることを忘れさせるほどだ。ある居酒屋の店先には「深夜1時まで営業」と手書きの看板が出ていた。

  その居酒屋の近隣で酒類を提供するバーの経営者は、廃業のリスクがあったため提供せざるを得なかったと、政府からの指導を懸念して名前を伏せることを条件に語った。 

  酒類提供の停止要請などに応じない一部の経営者はその理由として、経済活動の制限を緩和した米国や欧州の大部分の地域と比べ、日本の1日当たりのコロナ死者数はごくわずかにとどまっていることを挙げている。

  病床の確保にもっと重点が置かれていたら、病院はより多くの患者に対応できたかもしれないと飲食店経営者らは語った。東京都は要請に応じた飲食店などに1日最大20万円の協力金を支払っているが、失われた売り上げを補うには不十分だと言う。   帝国データバンクによると、コロナ関連倒産で飲食店は全体の約17%と業種別で最も多い。統計には廃業や一部店舗の閉鎖は含まれていない。   1月に2度目の緊急事態宣言が発令された際、要請に従わなかった店舗は目立たないように営業していた。通常営業を続けると発表したグローバル・ダイニングは3月、都を相手取り損害賠償訴訟を起こした。都の調査によると、8月時点で都内の飲食店の5300店余り、調査対象の約4%が公然と要請に従わず、この割合は数カ月前と比べて倍に増えた。   テンプル大学のアジア研究学科ディレクター、ジェフ・キングストン教授(東京都在住)は、要請に従っていない飲食店は都の公表値よりもかなり多いだろうと指摘。「日本人は規則を守り、権威に弱いと思われている。ただ、飲食店は追い詰められた状態であり、人々も飲みたがっている」と語った。   UBS証券の足立正道チーフエコノミストは、要請に応じない飲食店の急増は、1枚の割れたガラスの放置がやがて広範な環境悪化を招くという「割れ窓理論」を想起させると語った。「緊急事態宣言は緊急事態という感じがなくなっている」。

©2021 Bloomberg L.P.