(ブルームバーグ): 政府が掲げる2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」達成の鍵を握るのが電力業界。洋上風力発電所など再生可能エネルギー導入のための設備投資には巨額の資金が必要となり、電力会社によるグリーンボンド(環境債)発行も本格化していくとの見方がある。

  「2050年までに必要な再エネへの設備投資額は少なくとも70兆円」。SMBC日興証券の浅野達ESGアナリスト兼科学技術アナリストは、政府のグリーン成長戦略や10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画を基にこうした試算をまとめた。

  発電量の大幅な積み増しを計画する洋上風力発電はとりわけ「巨大なプロジェクトになる」と言い、政府のシナリオ通りに進むとすると「グリーンボンドを中心としたESG(環境・社会・企業統治)債の発行増加につながる可能性はある」との見方を示す。

  第6次エネルギー基本計画では、30年度に電力供給の36−38%を太陽光や水力、風力などの再エネで賄う方針が示された。19年度の再エネ比率の実績18%と比べて2倍の水準だ。国内の二酸化炭素(CO2)排出量の4割以上が火力発電所由来といい、再エネの主力電源化に向けた「切り札」として洋上風力発電を位置付けている。

  米ムーディーズ・インベスターズ・サービスは11月4日付のリポートで、「政府の第6次エネルギー基本計画によると、カーボンニュートラルの実現に向けて電力業界が最も大きな負担を負う」と指摘。日本が脱炭素を実現する上で「排出量が最も多い電力業界は非常に重要な位置付け」にあるともした。

電力業界で初起債相次ぐ

  東京電力ホールディングス(HD)の子会社で再エネ事業を手掛ける東京電力リニューアブルパワー(RP)は9月に初めて環境債を起債した。東電HDは30年度までに約600万ー700万キロワットの再エネ電源の開発目標を掲げる。中心となる洋上風力には数千億円規模の資金が必要。東電RPの文挟誠一社長は9月のインタビューで資金調達の一環として環境債の継続的な発行に意欲を示した。

  ブルームバーグのデータによると、11月30日までに電力セクターでは総額950億円の環境債を発行している。東北電力が20年2月に業界で初めて発行したのを皮切りに6社が起債した。北陸電力も近く初の環境債の発行を予定する。例年、国内社債発行額の1割強を占める電力業界で環境債が徐々に増える兆しが見える。

  11月に初の環境債を起債した北海道電の広報担当者は、資金調達は投資計画次第だとした上で、水力発電には毎年一定の投資があるため環境債は継続的に発行する考えを示した。1月に環境債を発行したJパワーは23年度までの3年間で再エネ事業に約1000億円を投資予定で資金需要を踏まえて継続的な発行を検討する。

  環境債発行のメリットについてJパワーの広報担当者は、投資家層の拡大が期待できることやカーボンニュートラルに向けた取り組み方針をステークホルダーに発信できる点を挙げた。

  ブルームバーグNEFによると、国内では20年代後半から洋上風力発電の導入加速が見込まれる。マニュライフ・インベストメント・マネジメントの押田俊輔クレジット調査部長は「23年ごろから洋上風力の設備投資が本格化する」とし、それに応じて電力会社の環境債発行も増えていくと予測する。

  もっとも、政府が描く再エネ導入のシナリオは、立地の制約条件や経済性の面から実現の難易度は高いともSMBC日興の浅野氏はみている。そのため、再エネ促進と並行して脱炭素への移行を支えるトランジションファイナンスの資金使途対象に「原子力発電所を含めるのが合理的」という。原発再稼働やメンテナンスにかかる資金についても調達しやすい環境を整えることが脱炭素の推進には重要だとしている。

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