(ブルームバーグ): 17日召集の通常国会を前に、金融所得課税の見直しや自社株買い規制への後に株価が下落した岸田文雄首相の発言が、市場の「リスク」になるとの見方が出ている。

  SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは、自社株買い規制などの発言は「マーケットを意識せず思っていることを素直に言ったことが、市場の感覚とずれていたり後ろ向きな発言に捉えられたりしてしまう」と指摘。今後、岸田首相がどのような発言をするかは「予見ができないという意味では、リスクだ」と語った。

  牧野氏は、岸田政権の政策は「分配戦略が先にある」とした上で、成長のために株式市場を活用するよりも「ポピュリズム的に皆に訴えかけている」との見方を示す。米国の利上げ前倒し観測が強まる中「グローバルな金融環境は絶好調ではない」ことから、「ネガティブな発言はインパクトを与えやすい局面にあり、注意しないといけない」と話した。

  岸田首相は成長と分配の好循環を目指す「新しい資本主義」を掲げ、市場偏重・株主偏重の資本主義がもたらした歪み(ゆがみ)の是正に取り組む考えを示している。発言は、昨年10月の政権発足時から株価変動につながったとの指摘がある。

  金融所得課税の見直しは格差是正策として総裁選の公約に明記し、就任後の記者会見でも分配政策の「選択肢」として言及。その後、日経平均株価は10月4日の政権発足を挟んで8営業日連続で下落した。続落日数としては2009年7月以来の長さで、首相は当面は撤回する意向を示したものの将来的な実施は否定していない。

  12月14日の衆院予算委員会では、企業の自社株買いに関連してガイドラインを作る可能性に言及。日経平均株価は一時300円超の値下がりとなった。

  4日の記者会見では、今年を「スタートアップ創出元年」として、5年計画を策定し「スタートアップ創出に強力に取り組む」と表明したものの、新興企業を対象とした東証マザーズ指数は翌5日に大幅安で52週安値を更新した。

  首相の発言だけに投資家は注目せざるを得ない。自社株買い規制に関する発言については、大和証券グループ本社の中田誠司社長や日本取引所グループ(JPX)の清田瞭最高経営責任者(CEO)、日本証券業協会の森田敏夫会長もインタビューや会見で言及した。

  岸田首相の発言を受け、「ジャパン・イズ・バック」「バイ・マイ・アベノミクス」とニューヨーク証券取引所で呼び掛けた安倍晋三元首相との違いを感じる市場関係者もいる。菅義偉前首相も日経平均株価が30年ぶりに3万円台を回復したことを受けて「目標の目標のまた目標だった」と述べるなど、株式市場を意識していた。

  T&Dアセットマネジメントの浪岡宏チーフストラテジストは、安倍元首相は海外投資家を呼び込む姿勢があったが、岸田首相には「投資家を意識した部分は見えない」と語った。55.7兆円の経済対策も「総花的で焦点がぼやけ、お金を分配する色彩が強く成長戦略が見えにくいため、投資しようにもどこに投資していいかが分からない」と話した。

  市場が懸念する一方、岸田内閣の支持率は高水準を保っている。読売新聞が14−16日に実施した世論調査では、支持率は12月の前回調査から4ポイント上昇し66%だった。政府の新型コロナウイルス対応について「評価する」が52%で、オミクロン株の急拡大も支持率低下には結びついていない。

  第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストも安倍政権は株価動向に敏感だったが、岸田政権は「株式市場のことは念頭に置いていないのではないか」と見る。成長戦略に掲げるスタートアップ支援や賃上げも「新しいものを始めるというより、既存路線をマイナーチェンジしているので、あまり響かない」と分析した。

  通常国会では、17日に衆参両院で岸田首相の施政方針演説が行われ、各党による代表質問の後、衆院予算委員会を行う。7月に参院選を控える中、株式市場や経済政策を巡る岸田首相の見解も問われることになる。

(世論調査の結果を追加しました)

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