(ブルームバーグ): 日本企業の自社株買いが新年度入り後に巨大化している。1000億円超の大型案件も相次いでおり、市場では好業績や株価下落に加えて資本効率改善に対する企業の意識変化も背景にあるのではないかとの指摘も出ている。

  4月末からの決算発表シーズンでルネサスエレクトロニクスは2000億円の自社株買いを発表した。前回は100億円の取得枠設定のみだった。設定枠ベースの単純比較では富士通は前回比3倍、ヤマダホールディングスや日本郵政は2倍でいずれも1000億円以上の案件だ。日立製作所は8年ぶり、村田製作所は10年半ぶりになる。

  自社株買いの総額・社数も増加している。東海東京調査センターの集計によると、4月から5月17日までの発表企業数は前年同期の1.6倍の255社、金額は倍増の3兆9713億円に達する。それぞれ同期間の過去最高だった19年の219社、3兆2937億円を更新を上回っている。

      4月以降に発表された主な自社株買い

  野村アセットマネジメントの石黒英之シニア・ストラテジストは「年初からの株安を受け、経営陣が自社株買いをすることは株価が適正水準より割安だとのシグナルだ」と述べた。米国株が大幅に調整して日本株市場でも積極的な投資主体を見出しにくい中、「企業が株価を一番割安だと感じていることは株式需給面での安心感につながる」との見方を示した。

  ヤマダHDは発行済株式数の24%に当たる大規模な自社株買いを発表、翌日の株価は値幅制限いっぱいのストップ高まで買われた。経営企画室長の清村浩一執行役員は今回の自社株買いについて、「事業の取り組みに自信があり、利益を稼げるから株主に還元するというのが大前提」と説明。その上で「業界の中で圧倒的な業績をみせれば低迷する日本株市場でも改めて評価をされる」と述べた。

  新型コロナウイルスからの経済活動再開を含めて日本の企業業績は良好だ。ブルームバーグのデータによると、TOPIX採用企業の1株利益は21年に4年ぶり過去最高を記録、22年と23年も連続の更新が見込まれている。一方では世界的なインフレ懸念やウクライナ危機が響き、TOPIXは昨年9月高値の2118.87に比べて3月末は8.1%安、一時は17%安となる場面もあった。

  自社株買いは年間や年度での過去最高更新の期待も高まる。CLSA証券のストラテジスト、ニコラス・スミス氏は「主要市場で日本ほど自社株買いや増配の原資がある市場は他にはない」と指摘。11月の上期決算時も多くの自社株買い発表が期待され、年間で過去最高を更新するだろうと予想した。東海東京によれば過去最高は年間が2019年の約8兆1800億円、年度では21年度の約8兆1000億円。

企業意識変化 

  企業を自社株買いに向かわせる要因の背景には、政策保有株の検証を求めた昨年6月のコーポレートガバナンス・コード改革や持ち合い解消を促す新TOPIX導入がある。こうした取り組みで株式持ち合いの解消圧力が一段と強まっている。大和証券の細井秀司シニアストラテジストは「企業は放出された持ち合い株を自社株買いで吸収しようとしている」と語った。

  こうした意識変化をさらに後押ししようとするのが東京証券取引所の市場再編だ。野村AMの石黒ストラテジストは、4月は第一弾でこれから第二、第三でプライム市場の基準が変わる可能性があると読んでいる。「東証再編も加わって、余剰資金を貯め込むだけでなく、資本効率を改善させて企業価値を高めることへの意識付けが広がってきている」と、石黒氏は分析した。

  決算シーズンの一巡後も発表は継続している。セイコーエプソンは19日、発行済株式数の9.5%に相当する自社株買いを公表した。金額は300億円で、前回(19年4月、100億円)の3倍となる。発表文では、「中長期的な財務目標および最近の業績動向に照らした現在の株価水準、配当政策におけるより積極的な株主還元の基本方針などを考慮」と説明。20日の株価は一時10%高と急伸し、終値では8.8%高と21年10月以来7カ月ぶりの高値。

(更新前の記事は2段落のルネサスの過去の自社株買いが設定枠であったことに訂正済みです)

(最終段落のエプソン株価を終値にして更新します)

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