(ブルームバーグ): 先週発表された5月の米消費者物価指数(CPI)の伸びが加速したことで、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長はインフレを抑制しようとすれば同国経済をリセッション(景気後退)に陥らせる恐れがあるという、ますます困難な状況に直面している。

  パウエル議長は昨年の大部分の期間、1970年代にインフレ高進を許容したバーンズFRB議長(当時)のような発言をしていた。しかしこのところ、インフレ抑制のため政策金利を最大20%まで引き上げたボルカー議長(同)に近いコメントに変わってきた。

  0.5ポイント利上げが見込まれている15日の連邦公開市場委員会(FOMC)会合後の記者会見でもパウエル議長はボルカー氏と同様の立場を示す可能性が高い。

  しかしボルカー氏と異なり、パウエル議長は少なくともこれまでは、強力な金融引き締めによって極めて深刻なリセッション入りを招く事態までは是認していない。パウエル議長は最近になって、物価圧力を抑制するためには若干の痛みと、ひょっとしたら失業率悪化が必要になるかもしれないと認めたが、なおリセッション入りの可能性については言及を避けている。

  これは11月に中間選挙を控える中、リセッション入りの可能性を語った場合、バイデン大統領と与党民主党に特に重大な政治的影響が及びかねない点を考慮すれば、恐らく当然のことだろう。

  元FRB副議長で現在はプリンストン大学教授のアラン・ブラインダー氏は「FRB議長としては、われわれにはリセッションが必要だというような肯定的なニュアンスで景気後退について口を滑らすことは望まないだろう」とした上で、「しかし多くの遠回しの言い方があり、議長はそれらの表現を使うだろう」と述べた。

  当局目標の2%はもちろん、比較的許容できる水準までインフレを抑制するためには経済の縮小と雇用情勢悪化が必要になると指摘するエコノミストが増えており、それにはブラインダー氏も含まれる。

  JPモルガン・チェースのチーフエコノミスト、ブルース・カスマン氏は「リセッションに陥ることなくインフレを許容可能な水準に安定化させる可能性について、私はより悲観的になっている」と述べた。同氏は高インフレとタイトな労働市場の長期化が賃金要求の高止まりと企業のコスト増につながる状況が展開するだろうと予想した。

  ブルームバーグ・エコノミクスの米国担当チーフエコノミスト、アナ・ウォン氏らは6日発表のリポートで、米経済のリセッション入り確率を今年は25%、来年は75%と予測。「2022年の景気下降の可能性は低いが、23年のリセッション入りを回避するのは難しいだろう」と分析した。

  投資家も反応している。5月のCPIが前年同月比8.6%上昇と約40年ぶりの高い伸びになったことを受け、米金融当局が引き締めペースを加速するのではないかとの懸念から、10日の金融市場では債券利回りが急上昇し、株価は急落した。7月と9月のFOMCで0.5ポイントの利上げを続けるとの見方は強まり、一部のエコノミストは0.75ポイント利上げが議論の対象となるとみている。

インフレ抑制で当局妥協か

  今後数カ月の政策金利の道筋と最終的な到達点は、当局者がインフレ抑制をどのくらいのペースでどの程度まで進めるかと、その達成のために経済の痛みをどの程度容認するかによっても左右される。

  バンク・オブ・アメリカ・セキュリティーズのグローバル経済調査責任者、イーサン・ハリス氏は金融当局について、妥協してインフレが3%で横ばい推移することを容認する用意があるだろうと指摘。その後、時間をかけて徐々にオーバーシュート(目標超過分)に対処することになるという考えだ。この道筋なら景気下降を避けることが可能となる。

  ハリス氏は「偉大な『インフレファイター』だったボルカー氏がインフレの4%への抑制で譲歩したことを思い出すべきだ」と語った。

  元国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストで現在はピーターソン国際経済研究所の上級研究員を務めるオリビエ・ブランシャール氏はインフレ率を2%まで沈静化させることでリセッション入りの危険を冒すよりは、インフレ率が3%まで下がった時点で当局は引き締めをやめ、この水準を新たな目標にするべきだと指摘した。

  一方、ニクソン政権下でバーンズ氏が欠いていたものが、パウエル議長には少なくとも現時点ではある。インフレ退治への政治的支持だ。バイデン大統領は先月末のパウエル議長との異例の会談で、物価高騰が米経済にとって最優先の課題であるとの考えを表明するとともに、当局がインフレ抑制に必要と考える措置を講じる政策運営の独立性に繰り返し言及した。

Powell Facing Choice Between Elevated US Inflation and Recession(抜粋)

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