(ブルームバーグ): ESG(環境・社会・企業統治)投資に携わる資産運用業界は、さらに厳しい規制強化に直ちに備える必要がある。運用会社にESG関連の助言を行う大手法律事務所の一つが警鐘を鳴らした。

  ロンドンに本拠がある法律事務所シモンズ・アンド・シモンズのパートナー兼ESG担当グローバル責任者であるソナリ・シリワルデナ氏は、「報い」を受ける日が近づいていると警告。「津波」のごとくESG規制が押し寄せているにもかかわらず、規制当局は業界全体が適応するための「猶予期間を必ずしも考慮しているわけではないことは現時点で明らかだ」と指摘する。

  ESGファンドの運用各社は、業界を襲った当局の取り締まりについて状況を把握しようとしている。5月31日にはドイツ銀行と資産運用部門DWSグループのオフィスに対して警察の家宅捜索が入ったが、これは規制当局による指示で行われたもので、ESG投資に関する取り締まりの前例が示される格好となった。捜索は環境配慮を装う「グリーンウォッシュ」を巡る疑惑を受けて行われ、DWSは疑惑について否定しているものの、同社の幹部が退陣に追い込まれる事態となった。

  規制に関する新時代の到来を印象付けるかのように、今月10日には米証券取引委員会(SEC)がゴールドマン・サックス・グループの資産運用部門のESG基準を巡って調査をしているとの情報が飛び込んできた。米国ではESG投資に関する完全なルールブックがまだ存在しないにもかかわらず、当局が調査に踏み切ったことになる。

SECがゴールドマンを調査、2ファンドのESG基準に関連−関係者

  シリワルデナ氏はブルームバーグに対し、「こうした動きは、今後数カ月の間に起こり得る規制当局による介入の第一波だと確信している」と語った。「ESGファンドの数は急増しており、規制当局が市場の信頼性を維持するために今後の方向性を示したいと考えたとしても驚きではない」とみる。

  実のところ、業界全体の「順守」を促す目的で「実例をほぼ示すような形を取らざるを得ないようなプレッシャーが規制当局側にかかっている」と、シリワルデナ氏は指摘。その上で、グローバルなポートフォリオを抱えて複数法域の規制に対応している資産運用会社にとっては、「究極の悪夢」だとしている。ゴールドマンがシモンズ・アンド・シモンズの顧客だという理由で、同社を巡る疑惑に関して明言は避けた。

  事情に詳しい複数の関係者によると、SECの調査はゴールドマンのミューチュアルファンド事業が対象で、顧客向けのマーケティング資料に約束されているESG基準に関して⼀部の投資で違反があるかが焦点になっている。調査は2本のファンドに関連しているという。

  ESG投資を精査する動きが活発化する中、顧客がESG問題に関して一段と発言権を持てるように対応しつつある金融大手もある。ブラックロックは13日、インデックスファンドに投資する顧客が、投資先企業の役員報酬や気候変動などの問題について議決権を行使できる取り組みを拡大していると発表した。

  一方、欧州ではDWSの一件が規制当局によるてこ入れ事例の第一号と言える。同社は昨年からグリーンウォッシュ疑惑に絡む捜査対象になっていたが、捜査の進展は見込めないといった感もあった。DWSは継続してESG投資事業を拡大してきており、同社のESG関連の明示事項を巡る疑惑を受けて顧客が投資を躊躇(ちゅうちょ)する様子もおおむね見られなかった。

  しかし、順守すべき規則が違和感を抱くほど不明瞭なことに資産運用会社の間で不安が生じ始めたのと同時期に、ドイツ当局は突然の取り締まり強化に踏み切った。フランス金融市場庁(AMF)のロベール・オフェル長官は、欧州のESG投資規則で明確な指針が欠けていることこそが、「グリーンウォッシュをあおっている」と語った。

 

  欧州の資産運用会社にとってESGルールブックの基本となるサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)は2021年3月に導入された。欧州は他国・地域に先駆けることで、世界基準の設定を期待していた。しかし、欧州証券市場監督機構(ESMA)は最近になって、SFDRの作成を急いだがために、「不完全で欠陥のある」部分が残っていることを認めた。

  シリワルデナ氏は、資産運用会社だけでなく、監視当局によるSFDRの解釈が「大きく異なる」点が見受けられると指摘。「欧州に対して提唱している全体像は統一的アプローチだが、現実はかけ離れているというのが実情だ」と付け加えた。

  SFDRでは、顧客にグリーン度合いを明示するために、運用会社は自社ファンドを分類する必要がある。第6条ファンドは、ESG特性が考慮されたものの、それを促進しない商品が該当する。第8条ファンドはESG特性を促進する商品。第9条ファンドはSFDRの中で最もESG特性が高く、サステナビリティー(持続可能性)を優先した商品が該当する。

  オフェル長官によると、第8条の適用基準が曖昧なため、解釈の仕方には非常にばらつきがあるという。

  ジェフリーズのESGストラテジスト、ルーク・スサムス氏は、「欧州連合(EU)や最高機関から定量化や規定に関する明示がないため、第8条適用のハードルは非常に低い」と指摘。「市場が進んで不明確な規制を逆手に取っている状況が分かってきている」とみる。同社の調査によると、「第8条に分類されているファンドで大きく保有されている銘柄は、実体経済で認識できるESGインパクトが実質ない」という。

  一方、SFDRが導入されて一年以上が経過しており、運用会社には「第8条の最低必要条件を満たすファンドをできる限り多く提供するというプレッシャーがかかっている」と、モーニングスターのサステナビリティー調査グローバル責任者、ホーテンス・ビオイ氏は指摘する。「欧州では、ファンドの売り手と買い手の多くが第8条と第9条に該当するファンドに限って検討を進めるということを口にしている」という。こうしたファンドをそろえることが、「運用会社にとっては必要不可欠になってきている」と付け加えた。

  シリワルデナ氏は、投資会社にとってSFDRに適応した自社のアセットアロケーションを擁護できるかどうか説明責任を果たせるようにしておくことが必要になるだろうと語った。実際、投資家が第8条ファンドを慎重に扱い始めている兆候が幾つか見られている。モーニングスターのデータによると、第8条ファンドの投資フローは、1−3月期に初めて純流出を記録した。

  ネクストジェンESGのサーシャ・ベスリク最高投資責任者(CIO)は、「DWSで起こったことを受けて、他の資産運用会社はこれまで以上に自分たちの発言する事柄に関して慎重になっている」と指摘。「過去数年間のでたらめや空約束には、かつて見たことがないような打撃を与えているだろう」と語った。

ESG Fund Bosses Hit by ‘Reckoning’ as Goldman, DWS in Crosshairs (1)(抜粋)

 

 

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