(ブルームバーグ): 2020年1月、米ラスベガスのIT展示会「CES」。ソニーグループの吉田憲一郎社長の30分にわたるプレゼンテーションの終盤でステージの照明が暗転した次の瞬間、光り輝く自動車のグリルが浮かび上がった。

  吉田氏はソニーブランドの流線形のクーペタイプの電気自動車(EV)を紹介し、過去10年間で携帯電話が進化したことを引き合いに、「次のメガトレンドはモビリティーだ」と述べた。70年以上の歴史を持つソニーが自動車産業への参入を表明した瞬間だった。

  自動車が自律走行し、電動化し、インターネットに接続されるようになるにつれ、さまざまな異業種企業が参入をもくろむようになった。特に米アップルは、3兆ドル(約400兆円)の自動車市場を破壊するのに必要な技術を持っているとして同市場に賭けている。ソニーもその仲間入りを果たした。

  ビッグテックの挑戦に既存の自動車メーカーは恐怖や反発を感じているが、吉田氏の「宣言」は日本で思いもよらないファンを獲得した。当時、ホンダの本田技術研究所社長だった三部敏宏氏だ。

  日本の自動車メーカーの中で、ホンダは最もEV販売に積極的で、2040年までに全ての車をEVなどのゼロエミッション車とする方針を掲げている。ホンダは早くからソニーが持つ家電製品や車載向けセンサー、ソフトウエアなどが他社製品との差別化や利益率が極めて低いEVの付加価値創出に役立つと考えており、ソニーとの協業に可能性を見いだしていた。

  複数の関係者によると、三部氏は何年もかけてソニーの経営陣に働きかけ、両社の相乗効果の可能性を説いてきた。三部氏が21年にホンダ社長に就任した後は両社の経営幹部から技術者までが何度も会合を開き、同年末ごろに合弁会社の計画が固まり始めた。今年3月には、吉田氏と三部氏が次世代EVを開発・販売する新会社を設立する計画を正式に発表した。

  三部氏は4月のインタビューで、全く違う文化と価値観を持つ異業種同士が組むことで「化学反応を起こせるというアイデアがあった」と述べた。

  ホンダにとって、三部氏のアプローチは理にかなっている。この数年、米テスラは自律走行機能や、アイフォーン(iPhone)のように無線通信でアップデートすることで車の性能向上を実現してきた。ソニーもクラウド接続や搭載した車載センサーを活用し、運転者の存在を前提としないいレベル4の自動運転を実現することを想定している。ホンダは25年に発売を予定するEVでこれらの技術を搭載することを検討するとしている。

  ソニーにとっては、自動車メーカーがパートナーになることで、ホンダのサプライチェーン、生産ノウハウや自動車販売に関する専門知識を得られる。

  モビリティー分野のスタートアップに投資するレッドブルー・キャピタルのオラフ・サッカーズ氏は、ビッグテックと自動車メーカーの協業は難しいかもしれないが、このモデルは自動車の急速な進化に対応するために「不可欠なもの」だと述べた。

  サッカーズ氏は「テスラという明確な目標があり、それに比べれば誰もが後れを取っている」と指摘し、ソニーとホンダの提携から「企業は自社の中核となる強みが何であるか、どこに技術やパートナーが必要かを認識しなければならない」と話した。今後は自動車業界での統合が進むだけでなく、協業がますます増えるとの見方も示した。

  一方で、文化的な隔たりや目標の違いから協業が途中でつまづくこともある。アップルは、自動車の開発・生産のために自動車メーカーのパートナーを広く探しているが、韓国の現代自動車やイタリアのフェラーリなどとの交渉は難航している。

  3月の共同会見で、吉田氏と三部氏は「次の大きなことに挑戦する」という共通の文化が、両社の間の違いを埋めるのに役立つとの認識を示した。ソニーとホンダによる新会社は、提携では避けられることの多い折半出資の予定だ。

 

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