(ブルームバーグ): 国内企業として過去最大規模の買収完了から3年半、武田薬品工業は株主還元の積極化を検討する段階に入った。円安が同社の業績にとって追い風になっているという。

  同社のクリストフ・ウェバー社長兼最高経営責任者(CEO)が28日、英語でのインタビューで明らかにした。同氏は、買収を通じて利益率が10ポイント改善したことから「成長投資、負債の圧縮、株主還元、この三つを同時に達成できる」との見解を示した。

  売上高の8割を海外が占める同社にとっては、円安が業績の追い風となる。今期(2023年3月期)の業績予想の前提として為替相場の見通しを1ドル=119円としているが、130円を超える足元の状況が続けば、売上高や1株当たり純利益(EPS)は1桁後半台の変化率での押し上げ効果が期待できると同社はみている。

  2019年に6兆円以上を費やしてアイルランド製薬大手のシャイアーを買収した後、有利子負債/EBITDA(利払い・税金・ 減価償却・償却控除前利益)倍率が一時5倍近くに膨らんだが、3月末時点で2.8倍にまで圧縮することに成功した。

  さらに、稼ぎ頭としてピーク時に年7000億円程度を売り上げることが期待されている潰瘍性大腸炎の治療薬「エンタイビオ」の後発医薬品が今後10年内に登場する可能性が後退したことから、この分野では武田薬が独走を続けることになる。

  取材に同席したコスタ・サルウコス最高財務責任者(CFO)は「剰余金を株主に還元することに焦点を当てており、将来的な配当の増額のほかに、自己株買いについても取締役会で検討を進めている」と語った。武田薬は潜在的な価値に対して「かなり割安な株価」を理由に、昨年10月に13年ぶりとなる自己株買いを発表し、1000億円を上限に自己株を取得したばかりだ。

  SMBC日興証券の田中智大アナリストは、武田薬の現在の株価水準は「アンダーバリューだと思っている」と指摘する。「7000億円級の製品で7年間も後発品が出る時期がずれる」ことを考えると、武田薬が享受できる利益は株式市場で正しく評価されていないのではないかとの見方を示した。

パイプライン

  武田薬は25年3月期までに注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療薬「ビバンセ」や高血圧症治療薬「アジルバ」の特許切れに直面する。このため、新薬の特許が切れることで後発医薬品に市場を奪われ売り上げが崖から落ちるように急減する「パテントクリフ」(特許の崖)を克服する必要があるが、ウェバー氏は主力製品の成長で補うことが可能だとみている。

  同社は昨年、睡眠障害の治療薬として有望視されていた「TAK−994」について、安全性の懸念が生じたために治験が中止に追い込まれた。睡眠障害治療薬はピーク時の年間売上高が最大60億ドル(約8154億円)になることが見込まれていただけに、中止発表後、株価は約2カ月間でおよそ16%下落した。

  株価は年末には反発に転じ、現在では下落前の水準まで戻している。しかし、シャイアー買収発表前には6000円を上回っていた株価は20年以降、おおむね4000円以下の水準にとどまっている。

  同社では現在、別の睡眠障害治療薬TAK−861の開発が進められている。ウェバー氏は、TAK−861について「TAK−994とは十分な違いがあり、同じような安全性の懸念は生じないことを期待している」とし、開発に積極的に取り組んでいると語った。

次の稼ぎ頭は買収で

  さらにウェバー氏は、エンタイビオの特許が失われる10年後を見据え、次の稼ぎ頭となる候補薬について、企業の買収や商業化の権利取得などを通じて獲得したい考えも示した。

  これまでは相対的に費用がかからない早期開発段階の候補薬をいくつも獲得してきたが、臨床試験の最終段階手前にあるものにも手が出せるほど財務状況が改善。同社が主要注力分野として位置付けている消化器系疾患、希少疾患、血漿(けっしょう)分画製剤、がん、神経精神疾患の5つの分野の中で買収候補を積極的に探しているという。

  同社は3月にJCRファーマとの間で、遺伝性の希少疾患ライソゾーム病を対象に、JCR独自の技術を活用した遺伝子治療の共同研究開発と独占的ライセンス契約を締結したと発表。

  通常、国内の製薬会社は海外での販路を確保するため海外製薬会社と連携することが多い。ウェバー氏は、日本企業がパートナーとして日本の企業を選ぶのは異例だとし、武田薬がグローバルな製薬会社になったことの表れだと語った。

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