(ブルームバーグ): かつて香港と世界を結んでいた啓徳空港の跡地に新型コロナウイルス隔離センターが建設された。オミクロン変異株の感染拡大後、旧滑走路の先端部分に中国の支援で急ぎ造られた。先週行われた完成式典では香港側が中国政府を称賛。「中央当局が香港を支援している。心を一つにして疫病と闘おう」という横断幕も掲げられた。

  英国が1997年7月1日に香港を中国に返還してから25年がたとうとしているが、この隔離センターは香港が抱えるジレンマの象徴だ。香港は世界に対しオープンであることを保障していた以前の自治を失いつつある。企業はシンガポールのようなもっとアクセスしやすい都市に従業員を異動させており、金融センターとしての香港の未来は盤石ではない。

  競争力が低下しつつある香港の当局は極めて厳しい状況を認識している。香港政界・実業界のエリート層は多くが2019年の民主化デモを鎮圧した中国政府の方針を支持したが、今は徹底的にコロナを抑え込む中国本土の「ゼロコロナ」戦略からどれだけ距離を置けるかを巡り腐心せざるを得ない。

  今月末で行政長官を退任する林鄭月娥(キャリー・ラム)氏は1日当たりの新規感染者が数百人だった際も、自らの持つ限られた権限を用い、入境者に対するホテルでの強制隔離期間を7日間に減らしロックダウン(都市封鎖)に抵抗。それでも実業界の要望には程遠く、世界が再び動き出している今でも、香港の入境管理は極めて厳しい。

  事情に詳しい関係者によれば、林鄭氏は外交官との私的な会話の中で、海外からの入境受け入れを進めたいと個人的には思っているが、隔離をやめさせる権限はないと述べたという。6月のブルームバーグとのインタビューで、林鄭氏は香港の隔離政策が「国際都市としての地位を弱める」ことを認めたが、いつどのような形でこの政策を変えるのかには触れなかった。

香港の林鄭長官、ワクチン接種の遅れ認める−ペッグ制変える根拠ない

  政府報道官は林鄭氏と外交官との会話に関する質問に対し、隔離解除は政治的意向の問題ではないとの14日の同氏発言を引用した。

  香港の憲法とされる基本法で約束された「高度な自治」を再び強化できるかどうかは、反中派取り締まりに関与してきた元警官、李家超氏の手に委ねられている。李氏は7月1日、林鄭氏の後任として香港行政長官に就任する。中国共産党の習近平総書記(国家主席)は香港入りし、李氏の就任式に出席する。

     李氏も今のところ、コロナ規制を香港がどう緩和していくのか明確に示していない。中国政府は28日、本土への入国者の隔離期間短縮を発表した。

  共産党は広東省の主要都市に香港とマカオを加えた「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)」構想を通じ香港と本土南部との融合を進めている。だが長期的には、中国の玄関口としての香港の重要性を踏まえ、引き続き香港が本土からの独立性を維持することを望んでいる。

  香港の価値を高めているのは本土との違いだ。香港ドル・米ドルのペッグ(連動)制により中国企業は国外に出ずに外貨での資金調達が可能。10年前に就任した習総書記は香港が株式と債券、資産運用商品を本土と相互に取引できるようにもした。上場投資信託(ETF)の取引接続も視野に入る。

  香港は「独自の金融システムを独自の方法で運営している。中国はそれを尊重していると思う」と立法会(議会)の林健鋒議員は主張し、「香港はその点で完全な自治を得ている」と語った。

  それでも、香港は北京の政治キャンペーンの影響を免れない。習指導部がテクノロジー企業の本土外上場に対する締め付けを強めると、香港株式市場からの資金流出が強まり、企業の資金調達はまひ状態となった。

  香港城市大学の劉冬舒助教(中国政治)は、中国本土と世界との架け橋として香港が機能するには、香港が自主的な決定を下すことができるという国際社会からの一定の信頼が必要だと指摘。中国政府は香港の「政治的側面と非政治的側面を分けようとしているが、他国がそう見なすとは思えない。世界が香港を信頼するだろうか。それは今、ますます不確かになっている」と述べた。

(8段落目を追加して更新します)

©2022 Bloomberg L.P.