(ブルームバーグ): 世界がインフレ高進時代に移行し、中央銀行が過去20年間の戦略を破棄することを余儀なくされるリスクが高まっている。

  これは、持続的な物価上昇圧力と経済成長の減速にどう対処するかを29日に討論したパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長と欧州の中央銀行総裁からの重要なメッセージだ。

  ラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁はポルトガルのシントラで開催されたECB年次フォーラムで、「低インフレの環境に戻るとは思わない」と発言。「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)と、われわれが今直面している地政学上の大規模な衝撃の結果として解き放たれた諸力があり、われわれの政策運営の状況と風景を変えていくだろう」との見方を示した。

  90分間に及ぶパネル討論会に参加したラガルド総裁とパウエル議長、イングランド銀行(英中銀)のベイリー総裁の発言は、金融政策の在り方が激変する可能性を意味する。長年、中銀当局者が直面してきた強敵は低インフレであり、リセッション(景気後退)や勢いを欠く回復に際して当局者は景気てこ入れのためゼロ金利政策や大規模な債券購入を進めてきた。

  だが、現在の共通の敵は猛烈な物価上昇圧力だ。米国ではインフレ率が40年ぶりの高水準に達し、こうした圧力は一過性ものだとしていた予測は、パンデミックによるサプライチェーン混乱やロシアによるウクライナ侵攻を受けて後退。物価抑制のブレーキをかけることを当局は余儀なくされている。米連邦公開市場委員会(FOMC)は今月の会合で1994年以来となる0.75ポイントの大幅利上げを決定。7月も同幅もしくは0.5ポイントの利上げの可能性を示唆している。

  パウエル議長ら米金融当局者にとって、基調的インフレが上昇して2%目標から離れかねないとの結論は、6月の当局者予測で示唆されたよりも一段と積極的な政策への転換を意味する可能性がある。

  FOMC参加者による最新の四半期予測では、年内に計1.75ポイントの追加利上げがあり、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は2023年に3.75−4%のピークに達すると予想される一方、24年には成長減速や当局目標に向けたインフレ率の鈍化を見込んだ小幅な利下げの可能性も想定されている。

  LHマイヤーのエコノミスト、デレク・タン氏は政策当局について、「言わんとしている内容は、多少の苦痛があり、望むような経済のソフトランディング(軟着陸)は得られないかもしれないが、それよりも悪いのは高インフレと高いインフレ期待だということだ」と分析。「これは大きな変化」であり、24年の利下げの可能性を排除することになるかもしれないと指摘した。

脱グローバル化

  パウエル議長は同フォーラムで、「世界が地政学的・経済的に再び幾つかの陣営に分割され、グローバル化が逆行すれば」生産性と成長率の低下を招く恐れがあると警告した。

  先進国は長年、グローバル化による追い風を享受しており、インフレ期待の安定につながっていた。だがここにきて、米国と英国、ユーロ圏のインフレ率は当局目標をはるかに上回っており、世界貿易や生産パターンが再構成される中で高インフレが定着しかねないと懸念されている。

  パウエル議長は「過去10年はディスインフレ要因の全盛期だった。そうした状況は少なくとも当面は消えたようだ。今は異なる要因があり、金融政策を極めて異なる方法で考える必要がある」と述べた。

  米金融当局はインフレ率が低過ぎる問題に取り組むため、政策運営のアプローチを見直し、インフレ率上昇が見込まれても予防的対応はしないことにコミットする戦略を20年に採用した。

  パウエル議長は今の環境でこうしたアプローチがまだ目的にかなうのか疑問が生じていることを認め、「今の世の中はかなり異なる状況にあり、インフレ率は高進し供給ショックは多く、世界中に強力なインフレ要因がある」とコメント。家計や企業のインフレ期待が最近の物価上昇の経験を反映した状態に変化する可能性が心配される中、議長は「そうした事態の発生を防止」していく考えを表明した。

Central Bankers Write Requiem for Low-Inflation Strategies(抜粋)

(パウエル議長発言などを追加して更新します)

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