(ブルームバーグ): 国内でスタートアップ企業による資金調達が増える中、中長期的な事業拡大に向けてESG(環境、社会、企業統治)に配慮した経営が、創業から間もない「シード期」の段階から求められるようになっている。

  ベンチャーキャピタル(VC)のジェネシア・ベンチャーズは5日、投資先スタートアップのESG経営を支援するサービスを始めたと発表した。第1弾としてハラスメント相談窓口を設置。投資先との対話を通じて企業価値向上を促すエンゲージメント活動の一環として無償で提供する。

  ジェネシアの河合将文チーフ・サステナビリティー・オフィサーは、ESG経営を意識する流れは今後、「非上場企業にも影響が及んでくる」と話す。新規株式公開(IPO)や企業への売却などで出口を目指す際、ESGの取り組みが遅れていると割安に評価されたり、サプライチェーンから除外されたりするなどのリスクがあるためだ。

  ジェネシアが5月に開いた勉強会に参加したスタートアップ48社61人へのアンケート調査では、回答者のおよそ半数がESG経営に関心を持っていると答えたが、既に積極的に取り組んでいるのは1割にとどまった。

  労働時間の把握や、従業員の心身の健康チェックなどのアクションを取る企業が多かった一方で、実際にESG経営を推進するに当たっては、知見やリソースの不足がハードルになっていることが判明。何から着手したら良いか経営者が苦悩する実態が浮き彫りになった。

  とりわけシード期にある企業は規模が小さく「ESG対応と言ってもできていないのが当たり前」と河合氏は指摘。スタートアップの最優先課題である事業成長を制約しない形で、ESG経営を支援していく必要があるとの認識を示す。

資金調達額は5年間で3倍

  未上場企業の資金調達は拡大傾向にある。スタートアップの分析を手掛けるINITIALによると、国内スタートアップの資金調達額は2021年に総額7801億円と、16年の約3倍に拡大。10億円以上を調達する企業の比率も10%を上回り、1件当たりの平均調達額も増えている。

  ユニコーン企業(企業価値10億ドル超の未上場企業)も多い海外では既に、ESG評価が企業価値を左右する事例が出ている。

  ファストファッション電子商取引スタートアップ、中国のシーインは企業価値が約1000億ドル(約13兆5300億円)に上るとも評価され、事情に詳しい関係者によれば、米国でのIPOを24年にも目指している。ただ、ファストファッションの事業モデルは、低賃金での労働者搾取や著作権侵害、環境汚染をもたらしているとの批判を招きやすい。使い捨てのイメージも伴うゆえ、同社は成功持続に向けてESG評価の改善策を進めていると、ブルームバーグ・ビジネスウィークは今月報じた。

  このESGを巡る批判は売上高の伸び鈍化と相まって、IPOの時期や株価評価に影響を与え得ると、関係者は話しているという。非公開情報だとして匿名で語った同関係者によると、4月時点での評価額である1000億ドルを約30%下回る水準で保有株を売却することを検討している株主もいる。シーインの担当者からのコメントは得られていない。

多様性確保を求める動きも

  ゴールドマン・サックス・グループのデービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)は20年に、取締役会が性別や人種など多様性に欠ける企業のIPOは手掛けない考えを表明。上場企業に対しても米証券取引所のナスダックが、少なくとも1人の女性と1人の人種・性的マイノリティーを取締役として選任し、できない場合には理由を説明するよう義務付ける規則の採用を決めている。

  国内でも多様性確保などを働き掛ける動きはある。独立系VCのANRIは今年7月、20年から掲げていた投資先の女性起業家比率2割を達成したと発表した。鮫島昌弘ジェネラル・パートナーは、投資先スタートアップに対しては、将来的にIPOを実施して社会の公器になっていくことを踏まえ、「なるべくシード期のタイミングから適切な倫理観は伝えている」と言う。

  資金調達において実際にESG経営の重要さを実感しているのは、建設会社と職人のマッチングアプリを運営する助太刀の我妻陽一社長だ。

  同社は今月、ESGや社会的インパクト創出を重視する投資家などから総額18億5000万円を調達したと発表。資金の出し手の一角を担うMパワー・パートナーズ・ファンドから、創業パートナーの関美和氏を新たに社外取締役として招き、ガバナンス体制の強化に力を入れることも表明した。

  足元のように株式相場が不安定な局面においても、「高いレベルでESG経営を行っていくことで、より長期的な目線で見てくれる多様な投資家と接点が持てる」と我妻氏。ESGは長期的に「社会を変革していくことに直結してくる」とも述べ、スタートアップにとってもESG経営に取り組むことは「価値がある」と語った。

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