前回紹介したゲリライベントは「ミナモ・ミュージック・ジャンボリー」という名前だ。素人集団の手作りイベントにも関わらず、出演バンド15組・観客400人近くを動員し、休日の河川敷に一瞬「異空間」を生み出した。誰が、なぜ、こんな大がかりな「遊び」を仕掛けたのか。キーマンのひとりは、出版社の営業部に勤めるごく普通の会社員Tさん(35)である。学園祭のようなピクニックをやってみたい…Tさんがそう思ったのは2年前のことだった。


河川敷に出現した「異空間」
仲間にアイデアを披露すると意外にも乗ってきた。仲間は主に30代で、営業マン、編集者、運転手、デザイナーなど職業はバラバラだが、音楽という共通の趣味で結びついていた。Tさんの思いつきを軸に、「バンド呼ぼう」、「じゃあDJも」、「屋台は?」とアイデアが膨らんでいった。

しばしば暴走し、非現実的になっていったアイデアを現実に引き戻したのはMさん(31)だ。

出演者のリストを作り実際に交渉を行った。仲間たちは、機材や人材の確保に奔走。足りないものは、知り合いのネットワークを駆使してかき集め、課題は「和民」でミーティングして解決策を探った。

最初の思いつきが酒の席の話だけで終わらなかったのは、全員がそれなりの社会経験を積んでおり、アイデアを具現化させるスキルを持っていたからだろう。メンバーのAさん(35)も「20代だったら妄想で終わっていたと思う」と振り返る。30代の社会経験が夢の実現に役立った。



フラッグを前に演奏するバンド
イベントの名前は「ミナモ・ミュージック・ジャンボリー」に決まった。

音楽を水面(ミナモ)の波紋のように伝えたい、という願いが込められている。仲間がロゴ・マークをデザインし、別の仲間がフラッグを制作した。

活動しているうちに仲間の輪が広がり、気が付くと20人ほどになっていた。必要経費はメンバーそれぞれが会費というかたちで出し合った。金額は個人のお小遣いの範囲レベル。

 会場は、ある程度広い敷地を確保できることと、アクセスの良さから多摩川河川敷と決め、朝一番でレンタカーで機材を運び込み、場所取り兼機材の設営をした。出演バンドは10組ほど。百人以上の集客力を持つ実力バンド・DJから、サラリーマンバンドまで、顔ぶれは様々だった。飛び入りで出演する人もいた。天気にも恵まれ、集まった数百人の観客は、ピクニック気分で1日を楽しみ、夕方に解散した。

いい大人が休日をつぶして奔走する。一体何が彼らをそうさせるのか。仕事もあり、家庭もあり、家を買って住宅ローンを抱えるものもいる。

「消費以上のことをしたかった」とTさんは言う。「生活のすべては消費に置き換えられます。でもそれだけじゃ、ちょっと寂しい。お金を吐き出すだけでなく、同時に何かを吸収したかった」。音楽、そしてフェスティバルはそれをかなえてくれる存在なのだ。

イベントは予想以上の成功に終わった。たった一度のお祭り…で終わるはずだったが、「楽しかった」という声が参加者のブログやミクシイなどを伝ってどんどん広がっていった。


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