「島はこのままの姿が理想」、北海道・天売島でホタテ養殖に携わる吉川幸夫さん(37)はそう話します。高校卒業後に札幌で就職したもののバブル崩壊を機にUターン。後継者不足に悩む漁業の実態や島のあり方についてお話を伺いました。(ボクナリ 美谷広海)


吉川さん
漁師の家庭に生まれた吉川さん。親の後を継いで漁師になろうと考えていましたが、父親から「外で勉強してこい、他の仕事を経験してこい」と言われ、高校を卒業して札幌の警備会社に就職。

「行ったばかりは色々なことが楽しかった」札幌でしたが、5年も経つと、決まった時間に起き、上司からの指示を受ける生活に堅苦しさを感じてきます。
さらに、バブルの崩壊が忍び寄ります。北海道拓殖銀行が倒産、道内の経済は冷え込み、リストラの嵐は吉川さんが勤務していた会社にも。「給与が下がって、初任給ぐらいになった」ことで島に戻ることを決意します。

吉川さんが島に戻ることを話したとき、父親は「そうか、そうか」と何を言うわけでもなく受け止めてくれたそうです。

島に戻って始めたのがホタテの養殖業。「ウニ漁や定置網はギャンブル。大きな定置網に水揚げがわずか5杯という日もあるし、朝までに300杯という日もある。1ヶ月で収入が200、300万いくけれど、入らなければゼロに近い」。一方、ホタテ養殖は漁協が生産目標をつくり、チームで水揚げします。吉川さんも給料制で働いています。



島の人口は350人。空き家も目立つ
天売島は道内の他地区に養殖用として稚貝を出荷しています。「3月にオホーツク、紋別地方に出荷します。成貝も扱っているけれど、稚貝のほうが早く育つので効率がいいんです」。

海流の関係などから、島の近くでないとあまり稚貝が育たないようです。北海道の名産ホタテのほとんどが、この天売島周辺の出身ということになります。

比較的安定したホタテ漁ですが課題は人手不足。担い手がおらず60-70歳ぐらいの人が中心。

この人手不足は漁業全体に言えるそうで「一人でやっててギリギリなのに、自分の子供に島に戻ってきて欲しいと思っている人は少ないでしょう。例えば親父の船に2人乗っても収入が増えるわけじゃないですから…」。刺し網をするにしても、漁の後に網をたたむ作業で人手が必要で、家族の協力がなければ出来ない仕事。漁業のIターンなども注目されていますが、現実は厳しいようです。

金銭的には都会ほどではない島の暮らし。吉川さんは「島にいたらお金は使わないですから。飲み代が一番かかってますが、街に出て飲んでいるわけでもないので。冬はみんなで集まって飲んだり、マージャンをしたり。そんなもんです」と笑顔を見せます。

今後の島のあり方について尋ねてみると、「このままが理想じゃないかな」との答え。「でも、人は増えたほうがいいかな。いろいな(意見の)人がいるだろうけれど」。収入が多いこと、人口が多いこと、娯楽が多いことが幸せに繋がるとは限らない。そんなことを吉川さんは言いたかったのかもしれません。


僕らの島生活
日本は7000近くの島で形作られ、本州などを除く離島のうち約400島に人が暮らしています。海に囲まれた小宇宙のようなコミュニティに残った独自性 は、画一的な大量消費から多様性が重視される時代の変化の中で魅力を増しています。離島をただ旅をするのではなく、島に生きる同世代の男性を訪ねてさまざ まな島の姿を紹介していきます。

美谷 広海(みたに・ひろうみ)
1975年フランス生まれ。小学校は富山、中高をギリシャで過ごす。引っ越し歴14回。大学在学中に佐渡島で能を演じる高校生を取材し、飛騨高山ドキュメンタリー映像祭入賞。2006年8月からブログ「世界を巡るFool on the Web」を開始。現在、IT企業の国際展開を担当。世界各地を転々としながら創作活動を続ける村上春樹的ワークスタイルが目標。


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