東京都北区にある作業所「つばさ工房」のジャムが評判になっている。このジャム、実はご近所の庭になる木の実が加工された「東京の真ん中」でつくられる、地産地消の食品なのだ。ご近所の庭にある枇杷(びわ)が豊作なのを見て「もったいない」と思ったことから生まれた取り組みが、新たな広がりを見せている。


美しい洋館と庭で知られる旧古川庭園に程近い閑静な住宅街を歩き、一軒の木造民家に到着した。思いのほか奥行きのある広い庭があり、そこに梅の大木が2本、枝を大きく広げている。木を揺すり、枝をたたくと、熟した実がたちまちこぼれ落ちる。拾い集めると用意したカゴは30分ほどで一杯になってしまった。

梅の実を引き取ったのは「つばさ工房」のスタッフと利用者だ。つばさ工房は、精神疾患を抱えた人々の地域での生活を支援する作業所。所長の羽田茂さん、今井后江さん、渡辺暢子さんの3名のスタッフが、25名の利用者を支えている。

作業所は1990年にスタート、内職や軽作業を中心に活動している。利用者には、定期的な通所、共同作業やコミュニケーションを通じて、生活の幅を広げてもらう。所長の羽田さんらは、日々の仕事の管理だけでなく、それぞれの利用者の課題を把握し、問題があれば自宅までフォローに行くこともしばしばだ。

この作業所の活動のひとつにジャム作りが加わったのは、ふとしたきっかけだった。
「給湯室から見える道向こうの枇杷(びわ)が豊作で、そこにたくさんカラスが集まっていたんです。それを見て、もったいないなーと思ったんです。もともと母がジャム作りをやっていて、時々行事で販売していたので、ご近所に頼んで材料を手に入れ、一度作ってみようということになったんです」(羽田さん)。

頼んで回ってみると、何軒かがすぐに快諾してくれた。以来季節ごとに、いただきものの庭木の果物でジャムを作るようになった。「活動を始めてから、庭先の実りが気になるようになって、庭木のことや旬の果物のこと、本当に詳しくなりましたよ」

東京都北区は、人口約30万人。高齢化率は25%に迫り、一戸建てに一人で住む人も増えている。独居では庭の世話が難しいこともあり、引取りの趣旨を聞き、喜んで応じてくれる人もいる。作業所にとっても、木の実を引取りに行くことで安心できる材料を入手するとともに、作業所の活動を理解してもらうことができる。

このような「よい循環」が生まれるなかで新たなつながりもできてきた。


例えば、近くの中学校では、授業の一環として校庭にブルーベリーを植え、それを収穫して提供してもらえるようになった。植物のことを知るだけでなく、自分で作った果実がそのまま加工されて食べ物になるまでを学ぶことは「食育」にもつながる。

ジャムづくりによって障害者への社会復帰の活動への理解も自然に広がっていく。精神疾患を持つ人々に対する理解は進んでいるとは言え、周囲の理解を広げ、深めていく取り組みは欠かせない。

「ジャム作り」を手がかりにした障害者の支援という新たな社会貢献が東京の真ん中で広がっている。

  • 共同作業所「つばさ工房」 東京都北区西ヶ原3-66-9-2F 電話・FAX:03-3910-4617


ソーシャルライフの傾向と対策
社会貢献活動というと何だか難しそうだけれど、誰もが社会や人の役に立ちたいと思うものです。このコラムでは、NPOやNGOとの意外な接点など、大きく変わろうとしている「ソーシャルライフ」の傾向と対策を探っていきます。

田中 康文(たなか・やすふみ)
1969年生まれ。アットニューストリーム(@NEWSTREAM)有限会社代表。千葉県NPO活動推進委員。誰もが気軽に社会貢献できる仕組みを考える「ソーシャルライフ・ラボ」の立ち上げを準備中。経団連事務局で企業の社会貢献 活動やNPOとの関係強化などを担当、3年間の韓国駐在などを経て独立。「シーズ=市民活動を支える制度をつくる会」プログラム・ディレクターなどを務めた。

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