「物価も高いし、仕事も少ない。島から出ようとするとお金がかかる。島の暮らしは都会の人が考えるような良い面ばかりじゃないよ」。単刀直入に話すのは、五島でウェブ制作の仕事をしている丸田敬章(39)さん。昔の中学、高校にいたような怖い先輩と話しているような感覚。別の予定があった夜も「こっちに飲みに来いといったじゃないか!」と電話がかかってきて…(ボクナリ 美谷広海)


  丸田さん
いいことは話さないと前置きした丸田さん。島を出るには、最低でも往復1万円。家族4人なら4万円。台風で輸送が止まれば物流が止まってしまう、と厳しい口調で生活の厳しさを言われると、部外者ならではの気楽さを見透かされているような気がしてきます。

話は延々の続き、お昼にもかかわらず、深夜の「飲みニュケーション」のような濃さにタジタジになりながら、用意された五島産のイサキに手を伸ばします。

白身なのに味が濃く、旨味が凝縮されている刺身は、隣の久賀島で漁業を営んでいるマルセイ水産の片山和彦さんのもので、ネットのショッピングサイトで上位にランクインする人気だそう。

「こんな美味しいものを食べれるのも旅の良いところ」とほっとしたのも束の間でした。

翌日久賀島に行くと話したとたん、丸田さんから「久賀島に行くんだったら片山さんにも挨拶していないかいとダメだよ」と忠告されます。「今から片山さんに電話しておく。うちに来てもらうからしばらく待っていて」と言われ、取材の予定があったのですが、その申し出を断るに断れません。


  マルセイ水産の魚で作った刺身
結局、その時にはお会いできず取材に行くことにすると、「また夜に連絡して。島に行く前に片山さんに挨拶をしておいて一緒に飲まなきゃダメだよ」とダメ押しされます。

郷に入れば郷に従え、島に行くにはきちんと地元の人に挨拶をしていけ、ということなのでしょう。よそから取材に来ている身としてはありがたいのですが、最近では濃密なコミュニケーションを経験していないため、煩わしくも感じてしまいます。

一緒に取材していた長崎在住の永野さんは夕方の最終便フェリーで長崎に帰る予定だったのですが、会わずには帰さないと言われ、「裏技があるよ。夜10時のフェリーにのって朝3時半に長崎に着く船がある。俺が電話すれば乗れるから」と解放してくれません。ちなみに、この船は一般の人は利用していない貨物船です。

夜に取材をしている間にも、「はよ飲みにこい」と催促の電話がかかってきます。丸田さんの家に着くと久賀島の「親分」はすでに帰ったとのこと。カンカンに怒っているそうで、「明日俺と一緒に早朝にあやまりにいこう」と言われてしまいました。丸田さんも蕨小中学校で行われる最後の運動会をビデオ取材するとのこと。翌日は朝イチの船で丸田家族と一緒に久賀島に行き、親分に謝りにいくことになりました。


僕らの島生活
日本は7000近くの島で形作られ、本州などを除く離島のうち約400島に人が暮らしています。海に囲まれた小宇宙のようなコミュニティに残った独自性 は、画一的な大量消費から多様性が重視される時代の変化の中で魅力を増しています。離島をただ旅をするのではなく、島に生きる同世代の男性を訪ねてさまざ まな島の姿を紹介していきます。

美谷 広海(みたに・ひろうみ)
1975年フランス生まれ。小学校は富山、中高をギリシャで過ごす。引っ越し歴14回。大学在学中に佐渡島で能を演じる高校生を取材し、飛騨高山ドキュメンタリー映像祭入賞。2006年8月からブログ「世界を巡るFool on the Web」を開始。現在、IT企業の国際展開を担当。世界各地を転々としながら創作活動を続ける村上春樹的ワークスタイルが目標。


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