今年も年末恒例のミステリーランキングがでそろいました。主なランキングの国内編1位は以下の通り(発表順)。くわしい順位はそれぞれの冊子・雑誌でご覧いただくとして、主な上位作品を「好書好日」掲載の記事で振り返ります。また、年に70〜80作の新刊ミステリーを読む「好書好日」編集長のオススメも紹介。年末年始、ゆっくりと楽しんでみてはいかがでしょう。

ミステリーランキング1位作品

・ミステリが読みたい!(「ハヤカワミステリマガジン」2020年1月号 以下・早)
 「刀と傘 明治京洛推理帖」(伊吹亜門、東京創元社)

・本格ミステリ・ベスト10(原書房 以下・原)
 「medium 霊媒探偵城塚翡翠」(相沢沙呼、講談社)

・ミステリーベスト10(「週刊文春」12月12日号 以下・文)
 「ノースライト」(横山秀夫、新潮社)

・このミステリーがすごい!(宝島社 以下・宝)
 「medium 霊媒探偵城塚翡翠」

ランキング上位を占めた主な作品

・「ノースライト」(横山秀夫、新潮社)文・1位 早・宝:2位

・「medium 霊媒探偵城塚翡翠」(相沢沙呼、講談社)原・宝:1位 文:5位

・「刀と傘 明治京洛推理帖」(伊吹亜門、東京創元社)早:1位 原:4位 宝:5位 文:10位

・「罪の轍」(奥田英朗、新潮社)文:2位 早・宝:4位

・「魔眼の匣の殺人」(今村昌弘、東京創元社)原:2位 早・文・宝:3位

・「紅蓮館の殺人」(阿津川辰海、講談社)原:3位 早:5位 宝:6位

・「いけない」(道尾秀介、文藝春秋)文:6位 早:7位

・「むかしむかしあるところに、死体がありました。」(青柳碧人、双葉社)文:7位 早:8位 原:9位

なお、4つのランキングの海外編1位は「メインテーマは殺人」(アンソニー・ホロヴィッツ、創元推理文庫)でした。昨年の「カササギ殺人事件」に続き、2年連続の独占です。

「好書好日」編集長の5冊

1、「medium 霊媒探偵城塚翡翠」

〈あらすじ〉推理作家として難事件を解決してきた香月史郎は、心に傷を負った女性、城塚翡翠と出逢う。彼女は霊媒であり、死者の言葉を伝えることができる。しかし、そこに証拠能力はなく、香月は霊視と論理の力を組み合わせながら、事件に立ち向かわなくてはならない。一方、巷では姿なき連続殺人鬼が人々を脅かしていた。(講談社ウェブサイトより)

 読み終えた瞬間、今年のベストワンが決まったと思った一冊です。タイトルからして近年はやりの特殊設定ミステリーと想像でき、作者は「日常の謎」系ミステリーで実績のある書き手、主人公の美少女探偵は萌えポイント高し……いかにも平成ミステリーのあるある要素をぶちこんだ作品だな〜と気楽な気持ちで読み進めたのですが、見事にどんでん返しをくらいました。かといって大ネタ一発だけの作品ではありません。張り巡らせた伏線をきれいに回収する王道の本格もの。令和元年のベストにふさわしい傑作です。

2、「魔眼の匣の殺人」

〈あらすじ〉その日、“魔眼の匣”を九人が訪れた。人里離れた施設の孤独な主は予言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた後、予言が成就するがごとく一人が死に、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。(東京創元社ウェブサイトより)

 特殊設定ミステリーといえば、2年前に話題をさらったのが今村昌弘さんの「屍人荘の殺人」でした。本格ものとしての完成度も高く、失礼ながら「この人、次を書けるんだろうか」と思っていたのですが、まさかの続編として出てきたのがこちら。今回は「予言」をテーマにしながらも、中身は正調クローズドサークルからのホワイダニット。デビュー作はフロックではなかったです、すみません。本編が端正に解決された後、物語の背後にある「大きな謎」の存在を浮かび上がらせつつ終幕。まだまだ楽しませてくれそうです。

3、「Iの悲劇」米澤穂信(文藝春秋)

〈あらすじ〉山あいの小さな集落、簑石。六年前に滅びたこの場所に人を呼び戻すため、Iターン支援プロジェクトが実施されることになった。業務にあたるのは簑石地区を擁する、南はかま市「甦り課」の三人。人当たりがよく、さばけた新人、観山遊香。出世が望み。公務員らしい公務員、万願寺邦和。とにかく定時に退社。やる気の薄い課長、西野秀嗣。彼らが向き合うことになったのは、一癖ある「移住者」たちと、彼らの間で次々と発生する「謎」だった――。(文藝春秋ウェブサイトより)

 安心安定の米澤ブランドによる連作短編集。復興政策が進む限界集落に移住希望者が次々とやってくるのですが、どの住民もなにやらいわくがありげな人ばかり。案の定、「事件」が起きてしまうのですが、行政と住民とのやりとりは、「ん、どこかで見たような聞いたような」という現代社会のカリカチュアになっているのも読みどころです。ニヤニヤしながら読んでいくと、終章にダークビターな結末が……。不気味な余韻を残す人間喜劇であり、ある種の社会派ミステリーといっていいかもしれません。

4、「いけない」

〈あらすじ〉第1章「弓投げの崖を見てはいけない」 自殺の名所付近のトンネルで起きた交通事故が、殺人の連鎖を招く。第2章「その話を聞かせてはいけない」 友達のいない少年が目撃した殺人現場は本物か? 偽物か? 第3章「絵の謎に気づいてはいけない」 宗教団体の幹部女性が死体で発見された。先輩刑事は後輩を導き捜査を進めるが。どの章にも、最後の1ページを捲ると物語ががらりと変貌するトリックが……!(文藝春秋ウェブサイトより)

 ミステリー界を超えて多くのファンを持つ道尾さんですが、初期作品「向日葵の咲かない夏」で見せたパズラーぶりを、いかんなく発揮した一冊です。本格ミステリーを褒める際の常套句「2度読み必至」が、これほどあてはまる本もないのではないでしょうか? 章末におかれたビジュアルで物語の真相ががらりと変わる仕掛けで、思わず人と「推理」を語り合いたくなる。ミステリーが、そして本がコミュニケーションを生み出す力になるという願いと確信を感じさせるチャレンジ精神に一票です。

5、「そして誰も死ななかった」白井智之(KADOKAWA)

〈あらすじ〉覆面作家・天城菖蒲から、絶海の孤島に建つ天城館に招待された五人の推理作家。しかし館に招待主の姿はなく、食堂には不気味な泥人形が並べられていた。それは十年前に大量死したミクロネシアの先住民族・奔拇族が儀式に用いた「ザビ人形」だった。不穏な空気が漂う中、五人全員がある一人の女性と関わりがあることが判明する。九年前に不可解な死を遂げた彼女にかかわる人間が、なぜ今になってこの島に集められたのか。(KADOKAWAウェブサイトより)

 何が飛び出してくるかわからない――そんな作家さんの一人で、新刊が出るたびに手にとってしまいます。今回はあからさまにクリスティの名作が下敷き。孤島に集められた人々の身に事件が起き、用意された人形が一つ、また一つと減っていきます。でも、タイトルは噓でないのです。なぜなのか。これまた一種の特殊設定ミステリ−なのでしょう。持ち味である残酷シーンが満載なので、万人に勧められないのが残念ですが、本格好きなら納得できるはず。覚悟のうえ、お読みください。