第162回芥川賞・直木賞が15日決まった。芥川賞に選ばれた古川真人(まこと)さんの「背高 泡立草(せいたかあわだちそう)」、直木賞に選ばれた川越宗一さんの「熱源」。どのような議論をへて受賞にいたったのか。

芥川賞、「受賞作なし」の気配漂う

 芥川賞は全体に低調で厳しい意見が相次いだ、と選考委員の島田雅彦さんが振り返った。選考委員は各候補作に「○」「△」「×」の3段階の評価をつける。最初の投票で「○」を得たのは古川さんと木村友祐さんの「幼(おさ)な子の聖戦」だけ。ほかは「△」か「×」だった。受賞の目安は過半数の「○」を得ること。1度目の投票ではどの作品も過半数に届かず、「『受賞作なし』の気配が濃厚に漂い、重苦しい空気が広がりました」と島田さん。

 上位の古川さん、木村さん、で2回目の投票を行い、古川さんが「ちょうど半数」の「○」を得て「8分間の沈黙のあと、△を○に上げる、とある選考委員が発言したことで受賞が決まった」という。

 受賞した古川さんは「草刈りという退屈な作業を描く中で、土地の歴史的な重層性を巧みにすくいあげた」と評価された。次点は、哲学者の千葉さん。「ドゥルーズの哲学と、主人公のアイデンティティーの生成変化をうまく組みあわせたという評価があった。ただ、誰もがすなる自伝的小説を上回るパワーがあるかという点ではネガティブな意見もあった」。初めて候補になった木村さんには「エンターテインメント的な面白さを評価する人はいたが、それゆえにだめだ、エンタメに走りすぎだ、という声があった」と話した。

直木賞、近年まれにみるスケール

 一方、直木賞は1回目の投票で、に票が集まった、と選考委員の浅田次郎さんは講評で語った。「相当難しい資料を駆使し、近年まれにみる大きなスケールで小説世界を築きあげた」と話した。

 次点は小川哲さんの「嘘(うそ)と正典」。3番手が誉田哲也さんの「背中の蜘蛛(くも)」だった。2回目の投票を行うにあたって、この3作に4回目の候補のを加えるかどうかで議論となった。今回は、湊さん以外はすべて初めての候補だった。

 浅田さんは湊さんについて、「数を書いていて読者に支持されている方。ストーリーテリングに一日の長があるのは歴然としている。決選投票に残さないのはおかしいという意見があり、(4作で)慎重に選考した」と経緯を明かした。

 小川さんは「発想がユニークだが、ストーリーテリングに乗せていく膨らませ方が足りない、わかりづらいという意見があった」、誉田さんには「インサイドを詳しく書いていて、警察小説としては説得力がある。ただ、捜査のITのシステムがよく理解できない」とした。(興野優平、中村真理子)=朝日新聞2020年1月22日掲載